| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-081 (Poster presentation)
ニホンカワネズミChimarrogale platycephalaは,日本の河川上流域において水域-陸域をつなぐ重要な生態的役割を果たしていると考えられるが,食性や餌の選択性については断片的な情報しかない.本研究は,カワネズミの糞を用いたDNAメタバーコーディング分析により,カワネズミの食性と餌の選択性を年間通して把握することを目的とし,餌環境調査とあわせカワネズミの糞採集を行った.調査は奈良県2河川で1年間,熊本県2河川で秋季のみ行った.奈良県における餌環境調査では,1年を通し,水生生物の採集個体数はほぼ変動しなかった.陸生生物の採集個体数は,夏に多くなり,冬に0に近い値を示した.また,秋季において,餌生物群に奈良県・熊本県含む河川間の違いはみられなかった.カワネズミ糞から検出されたリード数が最も多い分類群は軟甲綱であり,次いで昆虫綱・貧毛綱・条鰭綱が多かった.餌の選択性を調べたところ,水生無脊椎動物において,十脚目は常に正寄りの選択,トンボ目は季節や地域で正と負の選択性の両方,カゲロウ目・トビケラ目・カワゲラ目は常に負寄りの選択性,ハエ目・ヘビトンボ目・半翅目・ウズムシ綱・環形動物門は常に負の選択性が示された.陸生生物は,落下性・地表性のほぼ全ての生物群が常に負の選択を示し,環形動物門(フトミミズ科)で常に正の選択,十脚目は主に正の選択ではあるが負の選択性を示す時期もあり,ハエ目は主に負の選択ではあるが正の選択を示す時期もあった.魚類は冬季に検出リード数が多くなり,ハゼ目とコイ目の選択性が高い月が多かった.これら結果から,カワネズミは水生無脊椎動物を常食しながらも,年間を通してフトミミズ科やサワガニ科といった水域と陸域をつなぐ生物による資源補償を受けている可能性が示唆された.また,冬季において食性が魚類へシフトすることから,繁殖期にあたる冬季にはエネルギー獲得量を増やす必要も示唆された.