| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-083 (Poster presentation)
一般に、繁殖活動中の雄はより多くの子孫を残す為に、交尾相手の探索と評価や、婚姻色やその他行動等による目立った求愛、雄間競争を行う。このような繁殖行動には代替戦術がみられ、自身や周囲の状況によって使い分けられていることがある。特に、これら繁殖戦術によって捕食リスクが変化する場合、捕食者の存在は戦術の選択に大きく影響する。植食性節足動物であるナミハダニの雄では、雌を確保する際に他の雄を攻撃して追い払うファイター戦術と、何らかのメカニズムにより他雄からの攻撃を避け、雌にマウントし続け交尾の機会を覗うスニーカー戦術が報告されている。この繁殖戦術は生涯を通じて可変的であり、雄の日齢や雄の密度など状況に応じて使い分けられている。他の植食性動物と同様、ナミハダニにおいてもその行動・生態の進化には捕食圧が大きく寄与していると期待されるが、捕食者の存在がこれら繁殖戦術に与える影響については全くわかっていない。そこで本研究では、それぞれの繁殖戦術により静止期雌(脱皮して成虫になる前のステージの雌)をガードしている雄に、天敵であるチリカブリダニを導入し、捕食される確率や雄の行動を30分間観察し、比較した。その結果、ファイター雄とスニーカー雄の間で捕食される確率に違いは見られなかったが、ガードされている雌を含めると捕食される確率はスニーカー雄カップルで有意に高かった。行動においては、雌へのマウントをやめ逃走する行動が、チリカブリダニとの接触前、接触時にみられた他、捕食されるまで逃走しない雄も観察された。逃走した雄の多くは接触時に逃走したが、接触前の逃走はスニーカー雄に比べてファイター雄で多く見られた。これら結果から、繁殖戦術の違いは捕食者に対する逃走タイミングに影響し、逃走の遅れは雄自身だけでなくガード対象である雌をも捕食リスクにさらす可能性が見られた。