| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-086  (Poster presentation)

カワスズメ科魚類 Neolamprologus pulcher における顔の地域変異と異人種効果【A】
Geographical variation in facial patterns and other race effect in the African cichlid fish, Neolamprologus pulcher【A】

*西田光希, 川坂健人, 十川俊平, 幸田正典, 安房田智司(大阪公立大学)
*Koki NISIDA, Kento KAWASAKA, Shumpei SOGAWA, Masanori KOHDA, Satoshi AWATA(osaka metropolitan Univ.)

多くの動物において個体識別は社会関係の重要な側面を担っている。先行研究から、相互作用する個体が多いほど、識別に関係する認知能力や記憶能力が向上すると考えられている。しかし、社会環境の違いによっては個体間・集団間で認知能力が変化する事例も存在する。この代表的な例が「異人種効果」である。異人種効果とは、自人種の顔と比べて他人種の顔が見分けづらい現象のことである。例えば、テレビや雑誌で見た外国人俳優の顔の区別がつかないといったことが、これに当てはまる。このような後天的に識別能力が変化する事例はヒト以外では確認されていない。そこで本研究は、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類のNeolamprologus pulcherに着目した。本種は最大で30個体ほどの群れを形成し、繁殖個体だけでなく、群れの中に子育てを手伝うヘルパーという役割を持った個体が存在する、協同繁殖種として知られている。さらに顔の模様の違いに基づいた個体識別を行い、顔の模様に地域変異を持つということがわかっている。この顔の地域変異を用いて異人種効果の検証を行った。N. pulcherに同地域・別地域の模様を持つ既知・未知個体の顔写真をそれぞれ提示し、個体識別が地域による模様の違いの影響を受けるかについて調べた。同地域の個体どうしを用いた先行研究では,本種が既知個体よりも未知個体に対してより攻撃や警戒を行うことがわかっている.異人種効果がある場合,別地域の個体の識別は難しくなるので,両個体に対する攻撃や警戒は同程度になると予想される.実験の結果,先行研究同様に同地域の顔写真に対して既知よりも未知でより攻撃や警戒を行う傾向がみられたが,別地域では既知と未知でその差は小さくなった.この結果は,同地域の場合と比べて別地域の個体の識別が困難であったことを示し,これは本種にも異人種効果が存在することを示唆するものである.


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