| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-087  (Poster presentation)

ヒメイトアメンボの屈伸行動は捕食回避に有効か?-実際の捕食者を用いた検証-【A】
Is Push-up behaviour effective for avoiding predation in marsh treader Hydrometra procera? : A test of real predator species【A】

*石津智史, 立田晴記(九州大学)
*Satoshi ISHIZU, Haruki TATSUTA(Kyushu Univ.)

昆虫や爬虫類の一部では体を上下や左右あるいは前後に揺らす行動が観察される。この中でも特に肢の屈伸によって胴体を垂直方向に上下させる行動を屈伸行動という。この行動には求愛、雄間闘争、接近型捕食者に対して餌としての不採算性を伝える追跡抑止信号などの適応的意義があると考えられている。こうした行動はカメムシ目イトアメンボ科に属するヒメイトアメンボHydrometra proceraでも観察される。本種の場合、待ち伏せ型の捕食者であるヌマガエルと遭遇、接触した際にこの行動をとることがある。追跡抑止信号としての屈伸行動は離れた位置の捕食者へ向けて行われるのに対し、ヒメイトアメンボは捕食者の至近、更には接触する位置でも逃避せずに屈伸行動を示す。よって本種の場合は異なる意義を持つことが考えられる。本研究では本種の屈伸行動が反虫的動作に分類される動きである可能性に注目した。反虫的動作とは物体がその長軸に対して垂直方向に移動する動きであり、カエルはこの動きを示す物体の映像を提示されると怯えや無視といった反応を示す。そこで、ヒメイトアメンボの屈伸行動は反虫的動作に分類されるためヌマガエルが反応を示さず、捕食回避としての機能を持つ。この仮説を検証するため、ヌマガエルに対してヒメイトアメンボの歩行と屈伸行動を行う動画をそれぞれ提示する実験を行った。まず実験直前にヌマガエルの食欲、反応性を確認するために餌であるミールワームが歩行する様子を映した動画を提示した。そして動画に映るミールワームに飛びかかる捕食反応を示した個体に対して、事前に撮影しておいたヒメイトアメンボの歩行および屈伸行動の動画を30秒ずつ提示した。その結果、ヌマガエルは屈伸行動の動画には一切反応を示さず、歩行の動画でのみ反応を示した。これよりヒメイトアメンボの屈伸行動は、反虫的動作という動きの特徴ゆえにヌマガエルからの捕食回避に貢献していることが示唆された。


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