| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-090 (Poster presentation)
攻撃的な個体は他状況においても攻撃的である、他活動においても活発である、といった行動の傾向や特性は行動シンドロームと呼ばれ、近年無脊椎動物においても注目されている。ススキスゴモリハダニ種群はダニ目ハダニ科に属する体長1 mm未満の植物寄生性節足動物であり、ススキの葉の裏に巣網を張り集団で共同営巣する。本種群は巣内に侵入してきた捕食者(主にカブリダニ類)を集団で反撃して巣から追い出し、捕食者が未成熟であれば殺すこともある。また、同種の雄に対しても攻撃的であり、雄同士が殺し合いを行ってハーレムを形成することが知られている。この捕食者に対する反撃能力と雄同士の攻撃性には地理的変異がみられ、日本に分布する2種を対象とした研究では、攻撃性の強い集団は反撃能力も高かったことから、行動シンドロームの可能性が考えられる。しかし、あくまで2種間での比較であり、本可能性を検討するにあたって更なる調査が必要である。特に近年、これら2種の中間的な雄同士の攻撃性を示す種が南琉球諸島や台湾で発見された。もしもこの種の反撃能力が攻撃性と同様に中間であるとしたら、この可能性は強く支持されると考えられる。そこで本研究では、中間の攻撃性を示す種を含めた攻撃性既知の3種5個体群を対象に捕食者に対する反撃能力を調査し、攻撃性との関係を明らかにした。その結果、予想に反して中間の雄同士の攻撃性を示す種の反撃能力は最も高い傾向が見られた。そのため、行動シンドロームの可能性は否定された。一方、一般的に低緯度であるほど捕食圧は強いとされているが、最も南方に分布する種の反撃能力が最も高かったことから、捕食圧の違いが反撃能力に影響を与えている可能性が考えられた。今後は種間での捕食者相の違いや各捕食者との遭遇頻度について野外調査等により明らかにしていきたい。