| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-092 (Poster presentation)
多くの生物種で、メスが多回交尾を行うことが知られている。メスの多回交尾は子の数や、その遺伝的性質の向上によりメスに利益をもたらす。一方で、複数のオス由来の精子が保持されることにより、受精をめぐる精子競争が生じるため、オスにとって適応度上の不利益につながる。そのため、オスがメスの再交尾を抑制することは、自身の父子確保の観点から重要である。
オスによるメスの再交尾抑制戦略は、オスによる交尾後ガードやメスの交尾受容性や魅力度を下げる化学物質の注入、メスの生殖孔を塞ぐ交尾栓など多岐に渡るが、中にはメスの身体の一部に物理的損傷を与える事例が知られる。クモでは、「交尾器破壊」と呼ばれる、オスが交接時にメスの外雌器にある垂体という構造を除去して、メスの再交尾を抑制する種が存在し、これまでに5種のクモで報告されている。
近年、トゲゴミグモ Cyclosa mulmeinensis でも交尾器破壊とそれによる再交尾抑制が確認された。本種では野外で産卵済のメスの大半は垂体が破壊されているが、一部垂体が残った個体も存在する。本研究では未交尾メスを対象に、交接数 (オスの触肢の挿入回数) と交尾器破壊の発生率の関係を実験的に検証した。その結果、トゲゴミグモの交尾器破壊には2回以上の交接が必要であることが明らかになった。加えて、垂体が無い既交尾メス、垂体が残った既交尾メスを対象に、垂体の状態が再交尾に与える影響の有無を検証した。その結果、垂体を失った既交尾メスでは完全に再交尾が抑制されたことに加え、垂体が残った既交尾メスでも、未交尾メスと比較して交尾成功率が大きく低下した。以上の結果から、垂体が完全に除去されていない場合でも、交接には一定の再交尾抑制効果があることが示された。