| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-094 (Poster presentation)
生活史は性成熟、出産、寿命など、個体の一生を表し、表現型の組み合わせにより多様性が存在する。先行研究から、生活史は時間に関係する表現型の集まりである早い-遅い連続体(Promislow et al. Journal of Zoology 1990)と、出産に関連する量の二次元で表せることがわかっている(Healy K et al. Nat Ecol Evol. 2019)。しかし、時間に関係する量と出産数の間に、分類群によらず共通する性質が存在するのかは明らかになっていない。そこで、本研究は多くの生活史データが得られている脊椎動物に着目し、データベースを解析した。まず、哺乳類の生活史データに着目し、主成分分析を行ったところ、先行研究と同様にPC1は早い-遅い連続体に対応し、PC2は出産数に対応していた。哺乳類の生活史を、異なる分類階級 (目と科)に着目して確認したところ、性成熟期間か出産数の片方のみが多様化していた。また、この性質は鳥類、爬虫類、両生類、魚類だけでなく、脊椎動物全体でも共通していた。このことから、脊椎動物には性成熟期か出産数の片方のみが多様化する性質が、様々な分類階級に共通して存在することがわかった。次に、性成熟期間と出産数の分布がどのような仕組みから生じるのかを理解するために、オイラー・ロトカ方程式をもとにした数理モデルを作成した。この数理モデルにおいて、自然増殖率が極めて低い場合、性成熟期間の延長に伴って出産数が減少し、哺乳類や鳥類で確認された生活史の分布を再現した。また、自然増殖率が大きい場合、性成熟期間が延びるにつれて、出産数が増加した。このことから、性成熟期間と出産数の分布は、生物の自然増殖率により概形が決まることがわかった。また、生存曲線の違いは分布の概形は維持しつつ、分布の傾きの変化に影響した。以上のことから、時間に関する表現型と出産数の分布は自然増殖率によって概形が決まり、生存曲線の変化できる範囲によって表現型の取りうる値が制限され、生活史表現型の分布が定まると考えられる。