| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-101 (Poster presentation)
高山生態系は山岳地系上部に形成された空間的に孤立した生態系であり、地球温暖化の影響を強く受けると予想されている。このような高山生態系に成立する生物群集に対して、山麓から供給される節足動物、とくにアブラムシによる資源補償が生じていることが分かっている。このようなアブラムシによる資源補償のメカニズムを理解し、アブラムシの個体群の変動を予測することは、温暖化が高山生態系に与える影響を評価する上で重要である。とくに、アブラムシを含む植食性の生物にとっては、将来的にホスト植物とフェノロジカルミスマッチが生じるかどうかが気候変動の影響として重要である。そこで、本研究では、調査地である乗鞍岳において盛んに鳥類に利用され、また、有性世代の雌を除くすべての世代が有翅型である特殊な生活史で分散能力が高い、ホスト植物がダケカンバ(Betula ermanii)であるEuceraphis属のアブラムシの季節動態に対する気候変動の影響を明らかにすることを目的として野外調査と室内実験を行った。まず、標高の異なる7地点で5月から8月に野外調査を行い、アブラムシの発生フェノロジーやホスト植物の芽吹きフェノロジーと環境要因の関係性を調べた。さらに、アブラムシ個体群の増殖とホスト植物のフェノロジカルミスマッチを実験的に明らかにするために移植実験を行った。この実験では、様々な標高の地点で採集したフェノロジーの異なるシュートにアブラムシの幹母(越冬卵から生まれた成虫)をもちいて、移植した個体とその子供の寿命と生死を計測し、アブラムシにとっての植物のフェノロジカルウィンドウを明らかにした。