| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-102  (Poster presentation)

ブナ科堅果がツキノワグマの成長と繁殖に及ぼす影響:頭骨サイズと初期繁殖に着目して【A】【B】【E】
Effects of food availability on growth pattern and first reproductive success of Asian black bears【A】【B】【E】

*栃木香帆子(東京農工大学), 高山楓(東京農工大学), 姉崎智子(群馬県立自然史博物館), 黒江美紗子(長野県環境保全研究所), 丸山哲也(栃木県林業センター), 長沼知子(農研機構), 山﨑晃司(東京農業大学), 小池伸介(東京農工大学)
*Kahoko TOCHIGI(TUAT), Kaede TAKAYAMA(TUAT), Tomoko ANEZAKI(Gunma Museum of Nat. Hist.), Misako KUROE(Nagano Env. Conserv. RI), Tetsuya MARUYAMA(Tochigi Pref. Forestry RC), Tomoko NAGANUMA(NARO), Koji YAMAZAKI(Tokyo Nodai), Shinsuke KOIKE(TUAT)

食物資源の利用可能性は、哺乳類の栄養状態の変化を通じて成長パターンや繁殖成功に影響を与える。食物資源のうちブナ科堅果の生産量は年ごとに大きく変動(以下、豊凶)するため、動物の成長や繁殖に様々な影響を及ぼす。日本に生息するツキノワグマ(以下、クマ)も堅果類を秋の主要な食物としているが、個体の適応度や個体群の存続に関わる成長や繁殖への影響については明らかになっていない。
本研究では堅果の豊凶がクマの成長と繁殖に及ぼす影響を検証することを目的とする。一般的に哺乳類は成長期に相当する若齢期に骨格が大きくなるため、成長パターンの違いは若齢期の豊凶に影響されるとして、以下の仮説を検証した。(1)成長期の豊作年の経験回数が多いほど、頭骨のサイズが大きくなる。(2)性成熟するまでの豊作年の経験回数が多いほど、初めて繁殖成功する年齢が早まる。
対象は越後・三国個体群(長野県、群馬県、栃木県)の2003年~2018年にかけての有害捕獲個体(オス=350、メス=171)とした。各個体の頭骨の長さと幅を計測し、von Bertalanffyの成長曲線の式を用いて、年齢に従った成長曲線を推定した。また優占種の堅果の結実状況の記録から、各個体の成長期までの豊凶経験回数を計算した。初期繁殖については、メスの歯の年輪幅から過去の繁殖履歴を推定し、各個体が最初に育児成功する年齢を算出した。
結果、成長パターンと初期繁殖どちらも豊凶によって変化しないことがわかった。その理由として、代替となる食物資源の存在が考えられる。クマの亜成獣は堅果の凶作年に食べ物をスイッチするため、豊作年と同等のエネルギーを獲得できた可能性がある。繁殖については、本研究で着目しなかった他の繁殖形質に対して豊凶が影響している可能性が考えられる。今後、堅果の豊凶によるクマの繁殖成功への影響を明確にするためには、様々な繁殖パラメータを用いて網羅的に検証していく必要がある。


日本生態学会