| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-105 (Poster presentation)
雌雄2つの「性」がある生物にとって繁殖行動は欠かせないものであり、自身の利益を高めるための雌雄間や雄間、雌間での対立と競争が広く見られる。特に雄間競争においては、闘争で勝つことで雌とペアあるいはハーレムを形成する「ファイター戦術」と、劣位な個体が隙をついて雌を奪いとる「スニーク戦術」という2つの代替繁殖戦術が様々な分類群で報告されている。通常、ひとつの繁殖集団では体サイズなどに応じた競争的序列が形成されるため、代替繁殖戦術は概ね固定したものである。
しかし、ヤツメウナギ類は同じ個体でもファイター戦術とスニーク戦術が頻繁に入れ替わる。ヤツメウナギ類は雄雌5−20個体ほどが入り混じってひとつの繁殖集団を形成する典型的な乱婚であるが、一回の産卵はペア産卵型である。つまり、雄が雌に巻きついて卵を絞りだすタイプなので1対1のペア産卵になり、雌がこの産卵を多数の雄と100回以上も繰り返す。興味深いことにヤツメウナギ類は巻きつき型のペア産卵であるが、別の雄がペアの上からさらに巻きついて放精するスニーク戦術も報告されている。一般的にファイター戦術とスニーク戦術はしばしば行動的な特化が見られるので、なぜヤツメウナギ類では頻繁な戦術の変化が見られるかを明らかにすることは、代替繁殖戦術のより深い理解に繋がると考えられる。
そこで本研究では、北海道において普通種である河川型シベリアヤツメ(Lethenteron kessleri)を用いて、スニークによる卵の受精成功率を調べた。ヤツメウナギ類は巻きつき型産卵であるため、多くの魚類に見られるばらまき型の産卵に比べてスニークによる受精成功率は低いと予測した。また、他の魚類で見られるような体サイズと受精成功の関係性があるか否かを検討した。