| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-106  (Poster presentation)

フタホシコオロギ雌における一雄多回交尾と多雄各一回交尾の繁殖失敗確率の比較【A】
Comparison of reproductive failure probability between repeated mating with same male and maitng with multiple males in Gryllus bimaculatus females【A】

*山本悠渡(愛媛大学), 安井行雄(香川大学)
*Yuto YAMAMOTO(Ehime Univ.), Yukio YASUI(Kagawa Univ.)

雌の繁殖には多くの不確実性が存在する。生物の生息環境は世代間で変動するので最適遺伝子型は一定でない。また、様々な要因から繁殖失敗を引き起こす「不適切な雄」と交尾してしまう可能性がある。このような状況における1雄交尾や特定の雄への父性の集中は適応度を大きく減少させる致命的失敗をもたらす可能性がある。bet-hedging polyandry仮説は配偶者に対する情報が欠如する場合でも多雄交尾が繁殖失敗に対するリスク分散として機能することを示し、遺伝子型の存続において重要なことがいくつかの研究で実証されている。しかし、これまでの研究で交尾回数と配偶者数の効果を分離して調査した研究はない。それぞれの効果の強さは繁殖失敗の要因によって大きく異なる。例えば、精子の移送失敗などの偶発的一時的原因に対して同一雄との複数回交尾はリスク分散として機能するが、遺伝的不和合などの恒久的原因に対しては無力である。交尾回数を増加するだけでも繁殖失敗の回避に十分有効なのか、配偶者数を増やすことが必要不可欠なのかは不明のままである。
本研究ではフタホシコオロギ雌の卵発生を1雄1回交尾区、1雄3回交尾区、3雄各1回交尾区で比較し、繁殖失敗における交尾回数と配偶者数の効果を検討した。その結果、繁殖失敗は1雄1回交尾で頻繁に発生し、1雄3回交尾区と3雄各1回交尾区は1雄1回交尾区よりも受精率・孵化率が有意に大きくなった。しかし、繁殖失敗は1雄3回交尾でもまれに発生し、家系の長期的存続の指標である世代間幾何平均適応度は3雄各一回交尾区のみが1雄1回交尾区よりも有意に大きかった。同じ雄と繰り返し交尾することは交尾失敗に対して有効であったが、(先天的・後天的に)不妊の雄に起因する繁殖失敗を防ぐことができないため、配偶者数の増加が家系の存続に重要であることが示された。


日本生態学会