| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-108  (Poster presentation)

夜行性鳥類の鳴き声は血縁に関する情報を含むか【A】
Do call features of a nocturnal bird contain kinship information?【A】

*中村晴歌(北海道大学), 澤田明(国立環境研究所), 髙木昌興(北海道大学)
*Haruka NAKAMURA(Hokkaido Univ.), Akira SAWADA(NIES), Masaoki TAKAGI(Hokkaido Univ.)

鳥類の鳴き声には同種の同一集団内であっても個体差が存在する。学習をする一部の分類群を除いて鳥類の鳴き声は生得的であるとされているが、野外個体群において非学習性鳥類の鳴き声を詳細に調べた例は少ない。本研究では沖縄県南大東島に隔離生息する小規模個体群であるリュウキュウコノハズクOtus elegans interpositusを対象に、鳴き声に遺伝情報が含まれるかを検討した。彼らは非学習性かつ夜行性で、鳴き声によるコミュニケーションは非常に重要となる。
Ravenを用いてリュウキュウコノハズクの鳴き声から複数の音声変数を抽出し、それを用いて個体間の多次元空間上のユークリッド距離を算出し、音響距離(鳴き声の類似度の指標)として以下の6つの組み合わせで算出した。1)同じ巣で育った兄弟間、2)父子間、3)娘の配偶相手と娘の父親の義父子間、4)義父子間と実父子間、5)つがい外受精による息子と育ての父親の父子間、6)同じ巣内の実の息子とつがい外受精による息子の間。また、各音声変数について父子間で線形回帰分析を行い、遺伝率を推定した。
父子間、兄弟間といった血縁者間では非血縁者間と比較して音響距離が小さい、つまり類似度が高かった。推定された遺伝率は全ての個体が共有する音節に関係する音声変数で高い値となった。よって南大東島のリュウキュウコノハズクの鳴き声には遺伝情報が含まれることが示唆された。彼らは出生地分散距離に存在する性差に加えて、配偶者選択時に鳴き声を用いた血縁認識を行い、狭い島内で近親交配を回避する可能性がある。もしそうであればメスは父親とより似ていない鳴き声をもつオスを配偶者として選択することが考えられるが、義父子間と実父子間の類似度に有意差は認められなかった。つがい外受精の子の鳴き声に関しては現在解析中であり、育ての親との間の鳴き声の類似度が実の子と比較して小さかった場合、フクロウ類は鳴き声が遺伝的に決定されるという定説を野外個体群で証明した貴重な例となる。


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