| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-112 (Poster presentation)
大型動物が絶滅した空洞化した森林では、種子散布機能の崩壊が懸念されてきた。その一例として、動物散布型植物で大型の果実をつけるヤマモモの種子散布量が、ニホンザルが絶滅した種子島で激減しているという報告がある。しかしこの先行研究では、ヤマモモの樹冠を訪れた動物にのみ着目しており、地上性動物による二次散布については検討されていない。本研究では、種子島と屋久島において地上性動物によるヤマモモの二次散布の有無と二次散布者を明らかにすることを目的とした。
2022年6月に、種子島(22日間)と屋久島(18日間)の各調査地で10地点に自動撮影カメラを設置し、実験的に林床に置いたヤマモモ果実を訪れる動物種とその頻度を記録した。また、動画内で果実を食べているか、くわえている様子が確認できる個体は採食個体としてカウントし、採食果実数とともに記録した。その結果、種子島では10種、屋久島では9種の動物が撮影された。ヤマモモ果実の採食が認められたのは、ニホンザル、ニホンジカ、ネズミ類、タヌキ、ハシブトガラスの5種で、特にニホンジカとネズミ類(主にアカネズミ)が高頻度で採食していた。ニホンジカはその採食方法や糞のサイズから、ヤマモモ果実を種子ごと噛み砕いており、ヤマモモの二次散布に貢献している可能性は低いと考えられた。一方でネズミ類は、その場で果実や種子を食べたり、果実を持ち去ったりする様子が確認された。このことから、ネズミ類によって運ばれて貯食された種子や果実のうち、一部は餌として消費されるものの、残された種子は発芽可能であり、ネズミ類はヤマモモ果実の二次散布者として機能している可能性が示された。また、ネズミ類による地中への貯食が結果として乾燥に弱い種子の保護に繋がる可能性もあり、ネズミ類はヤマモモの二次散布において、特にニホンザルのいない種子島で重要な役割を果たしていると考えられる。