| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-117 (Poster presentation)
実生更新の成否がその後の樹木群集に与える影響は大きいため、実生定着を制限する要因の特定は、実生動態の理解だけでなく、森林の更新や樹種組成を予測するうえで重要である。そこで本研究では、木本とスズタケの実生を対象に調査を行い、植食動物の排除処理と赤外線センサーカメラによる植食動物の特定を行うことで、植食動物が実生更新に与える影響を明らかにすることを目的とした。
本研究の調査は、愛知県の段戸モミ・ツガ希少個体群保護林で行った。調査区内に設置された44個の実生コドラ―トで、高さ30cm以下の実生の計測と記録を2022年の春期・秋期に行った。また、8月以降、20個の実生コドラートの一部分を金網で覆い、植食動物の影響を排除した区画(動物排除区画)を設けた。動物排除区画の近くには赤外線センサーカメラを設置して計78日間動画を撮影した。実生全体の死亡率と、葉面積および高さの増減、また主要樹種毎の死亡率と、葉の枚数および高さの増減を算出するとともに、動物の出現回数を求め、動物排除区画の内外での実生の死亡率と葉面積および高さの増減の2群比較と、一般化線形モデルによる環境要因の影響評価を行った。
実生全体としての死亡率は金網の内外での差がなかった一方で、動物排除区画では、スズタケ、リョウブ、ミズメの成長量に有意な増加傾向があったため、これらの種の実生は、植食動物に食べられやすい傾向があるのかもしれない。出現回数の多い植食動物はニホンジカ、野ネズミ類であり、ニホンジカの出現回数は、カナクギノキとミズメの葉の枚数の増加に有意な負の影響を与えていたため、この2種の葉はニホンジカに食べられやすいと考えられる。2022年秋に通過した台風によって、2017年の一斉枯死後から残存していたスズタケ枯死稈がほぼ倒壊し、今後はニホンジカをはじめとした大型の植食動物が林内により入りやすくなることが予想されるため、継続的な実生の調査が必要である。