| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-119 (Poster presentation)
捕食者が駆動するトップダウンの間接効果には、捕食による被食者の密度変化が関わる密度媒介型(DMII)と、被食者の行動や形態といった特性変化が関わる形質媒介型(TMII)の2種が存在する。TMIIの強さはDMIIと同等かそれ以上になることがあるため非常に重要である。
世界および日本の侵略的外来種ワースト100に含まれるスクミリンゴガイPomacea canaliculataは、イネOryza sativaに対する重要有害種として知られている。従来、水田内には本種の捕食者が少ないとされていたが、近年ハシボソガラスCorvus coroneが本種を捕食することが明らかになった。両種が存在する地域のうち、一部でしか捕食がみられないことから、カラスの捕食には学習の関与が考えられる。加えて、スクミリンゴガイは捕食者を識別して捕食を回避する学習行動をすることが明らかになっている。一般に、学習行動の連鎖が間接効果に果たす役割については研究例がほとんど存在しないため、本研究では、この三者系におけるTMIIの重要性を野外・屋外実験から明らかにした。
まず野外実験では、水田内に生息するスクミリンゴガイにカラスの捕食を模した処理を行い、貝の行動を調査した。スクミリンゴガイはカラスの捕食に誘発されて逃避行動を行い、カラスによる捕食がある地域の貝は、ない地域に比べて逃避行動を示す個体の割合や逃避の程度が高かった。次に屋外実験では、イネを植えた実験水田にカラスによる捕食がある地域とない地域の貝をそれぞれ別に入れ、被食リスクを3段階(カラスの捕食を模した処理を毎日、4日おき、捕食なし)に分けて16日間のイネの残存本数と貝の行動を記録した。その結果、カラスによる捕食の地域差がスクミリンゴガイの逃避行動にも影響するが、いずれの地域の貝でも被食リスクが高くなると逃避行動が誘発され、イネの食害が軽減することが分かった。以上より、学習の連鎖が間接効果を引き起こし、農業生態系において一定の役割を果たしていると考えられた。