| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-121 (Poster presentation)
液果をつける樹木は果実が動物に被食されることで種子が散布されることから,一定の果実生産である方が安定的に果実食者を引き付け,種子散布が順調に行われることが指摘されている。しかし,液果をつける樹木でも種子捕食者の影響が大きい場合には,凶作年に捕食者を飢えさせ,豊作年に捕食者を飽食させるために,果実生産の年変動が大きくなることが予測される。液果をつけるモチノキ属の複数の樹種では,種子内に種子食昆虫であるオナガコバチ科のハチが寄生することが知られている。本研究では2020年から2022年の3年間,モチノキ属のソヨゴとアオハダの果実・種子生産の年変動を複数個体で調べ,ハチによる寄生がそれらにどのように影響を与えているのか明らかにすることを目的とした。
シードトラップによる調査では,アオハダは開花数の年変動(平均CV=0.41)と成熟果実数の年変動(平均CV=0.48)が同程度であったが,ソヨゴは開花数の年変動(平均CV=0.22)に対し,成熟果実数の年変動(平均CV=0.57)が大きくなっていた。アオハダ,ソヨゴ果実共に鱗翅目による加害がみられ,落下果実に占める割合はそれぞれ個体平均15~30%,1~6%で弱い年変動がみられた。ソヨゴ果実では鱗翅目に加えてハチの寄生が多くみられ,落下果実に占める割合は個体平均30~50%で2021年はいずれの個体も50%を超えていた。成熟果実内の種子を切開したところ,ソヨゴはハチの寄生が多く充実種子のうち個体平均60~90%が寄生されていた。ソヨゴに寄生していたハチはウメモドキやナナミノキにも寄生するニッポンオナガコバチであり,ソヨゴの胚乳の発達に合わせて産卵し,年に2回の羽化がみられた。花を毎年一定量生産するソヨゴの果実・種子生産の年変動にはニッポンオナガコバチの寄生が大きく影響し,寄生がみられないアオハダは毎年安定して開花数に応じた成熟果実を生産していると考えられた。