| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-123 (Poster presentation)
マツ科やブナ科などの樹木の根に共生する外生菌根菌(菌根菌)は、菌根の形成によってリン(P)や窒素(N)といった土壌養分および水分の吸収を補助することで樹木の生育促進や生残に寄与することが知られている。さらにその能力は菌種によって異なることが明らかになっている。そのため、複数の優占樹種における菌根菌の群集構造や感染状況を把握することは、樹木の多種共存を理解するうえで重要であるといえる。また、菌根菌の機能が明らかになりつつある一方で、フィールドを対象として菌根菌と宿主植物の生育との関連性について調べている研究は未だ少ない。そこで、本研究では御嶽山亜高山帯常緑針葉樹林に優占するオオシラビソ(Abies mariesii)、トウヒ(Picea jezoensis var. hondoensis)およびコメツガ(Tsuga diversifolia)を対象に、外生菌根菌の感染状況を把握し、宿主樹木の生育に与える影響について評価した。
2022年6月に対象樹種の稚樹(樹高約30cm)を各種13〜14個体、計40個体選定し、サイズを計測した。2022年9月に選定個体を再測定後採取し、各個体の根系を観察、外部形態による菌根菌のタイプ分類を行った。その後、葉のN及びP濃度の分析を行った。また、アロメトリー式を作成しバイオマスの変化量(成長量)を推定した。
菌根菌タイプは138タイプに分けられ、樹種間で菌根菌のタイプ組成に有意な差が見られた。さらに、一般化線形混合モデルを用いて菌根菌の感染率と多様性が宿主樹木の成長量、葉のPとN濃度に与える影響について調べた。その結果、菌根菌の感染率と多様性は宿主樹木の成長量には影響を与えていないものの、感染率が高い個体ほど宿主樹木の葉P及びN濃度が高い傾向が見られた。PやNは植物の生育・成長において必須の元素である。今回の観察期間は約4ヶ月間と短かったため、より長期で宿主樹木の成長を追跡すれば、菌根菌の感染率が宿主の成長量に対して正の影響を与える要因として顕在化するかもしれない。