| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-124 (Poster presentation)
発熱植物のひとつであるハス属は、花の中心にある花托が30〜35℃に発熱し開花前日から約3日間その温度を維持するという極めて稀な形質を有している。これまでハス花がもつ発熱・恒温性は、香りの揮発促進や訪花昆虫への報酬、受精促進などの役割があると考えられてきた。本研究では、ハス花の発熱・恒温性が雄蕊の開葯を促進し、その結果訪花昆虫の誘引に寄与するという新たな役割の可能性に注目し、この仮説を実験的に検証することを目的とする。ハス属の多数の品種が栽培されている東京大学附属生態調和農学機構において、まず発熱器官である花托を開花1日目に切除しハスの発熱の程度を操作できるか検証したところ、花托を一部切除することにより夜間の発熱の程度が未処理の花と比べ3~7℃下がることが確認された。次に花托一部切除が雄蕊の開葯率に与える影響を調べたところ、花托を一部切除したハス花では未処理の花よりも開葯率が低下することがわかった。こうした花托操作による開葯率の低下は、操作した花に付随する雄蕊だけでなくその花托の上に乗せた別のハス花から採取した雄蕊でも生じたことから、花托操作による開花機能の不全などにより生じたとは考えにくい。また、恒温機を使って開花1日目に採取した雄蕊の開葯率と温度との関係を調査したところ、温度の低下に伴い開葯率が低下し、十分な開葯には30度以上が必要であることがわかった。最後に、花托操作により送受粉を担う様々な昆虫の訪花数が減少することがわかった。以上の実験結果より、花托一部切除による発熱の程度の低下は雄蕊の開葯率を低下させること及び訪花昆虫を減少させることが示唆され、また雄蕊の十分な開葯には30度以上という高い温度が必要であることがわかったことから、ハス花の発熱・恒温性は開花2日目早朝という適切なタイミングで雄蕊を開葯させ、訪花昆虫を誘引する役割を持つことが示唆された。