| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-125 (Poster presentation)
植物に含まれる特定の化学物質に対する好みは化学的選好性とよばれ、植食性昆虫のニッチを決定する要因のひとつとして知られる。化学的選好性の獲得は効率的な宿主探査の上で適応的と考えられている。
Rumex植物を専門に食べるコガタルリハムシも化学的選好性をもつ植食者の一種である。発表者らはこれまで、宿主植物のエゾノギシギシ個体群において、フェノール濃度が高い株はハムシに選好されることを明らかにした。フェノール濃度のバリエーションはギシギシ間の種内相互作用に伴うフェノール蓄積に起因していたことから、野外でギシギシが密集して生育する環境ではフェノール蓄積が生じやすくなっていると考えられた。以上のことから、植物群集の空間構造に応じて宿主探査効率が変化し、ハムシの化学的選好性の進化に影響を与えるという仮説を立て、これを数理モデルによって検証した。
まず、野外の植物のサイズと空間分布を再現した植物群集モデルを構築した。この群集ではギシギシ同士が密集する場合に種内相互作用に伴うフェノールの蓄積が生じると仮定した。ハムシは植物のサイズとフェノール濃度の2つに基づき餌場を確率的に選択し、消費型競争の結果、獲得した資源に応じて産子数が決定するとした。この条件のもとでフェノールへの選好性を進化形質とし進化シミュレーションをおこなった。
その結果、植物群集内で宿主の頻度が低く、かつ散在的に分布するとき、強い化学的選好性が進化した。宿主が散在的に分布すると、種内相互作用に伴うフェノール蓄積が起こりづらく、他種植物との見分けがつきにくいため、強い化学的選好性を持つことが適応的であった。強い化学的選好性を獲得した結果、フェノール濃度が比較的高い特定の宿主株へのハムシの集中分布が生じやすくなった。これらの結果は、植物群集の空間構造が創出する化学的環境が植食者の選好性の進化を促し、植食者の空間分布へと波及することを示している。