| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-127 (Poster presentation)
昼行性訪花者の多くは、紫外線A波(UVA)を、色を構築する要素として利用している。しかし、花のUVA反射が訪花者の誘引に及ぼす効果を調べた研究は、驚くほど行われていない。本研究は、背景色の異なるパントラップ(捕虫トラップ)を用いた野外実験を通じて、UVA反射の有無が訪花昆虫の誘引に及ぼす影響を調べた。
調査は、富山県立山連峰の室堂平(2021年/2022年)と長野県菅平高原(2021年)で行った。パントラップは界面活性剤を入れたシャーレと背景色となる色紙で作成した。色紙には以下5色(立山では4色)のいずれかを用いた:①UVAを反射する白(W+)、②UVAを反射しない白(W-)、③UVAを反射する黄色(Y+)、④UVAを反射しない黄色(Y-)、⑤UVAを反射しない青(B:菅平のみ)。立山では、パントラップで捕獲された昆虫種の訪花性を確認するため、花を訪問している昆虫を、捕虫網を用いて採集した。
パントラップには、主にハエ亜目と小型のハナバチ類が捕獲された。花上で捕獲された昆虫種との比較から、パントラップで捕獲されたハエ亜目とハナバチ類は、訪花性が高いグループであることが確認された。ハエ亜目は、W-のパントラップで最も多く捕獲され、W+(やB)での捕獲数は少なかった。しかし、Y+とY-の間では、捕獲数に明確な違いは見られなかった。この傾向は、ハエ亜目の多くの科で、広く共通して見られた。一方、ハナバチ類には、Y-よりもY+で多く捕獲される傾向があったが、W+とW-の間では捕獲数に明確な違いは見られなかった。
本研究の結果から、UVA反射の有無が訪花昆虫の誘引に及ぼす効果は、可視光域の反射スペクトル(可視光域の色)や、誘引される昆虫の分類群によって、大きく異なることが明らかになった。この知見は、今後、植物と訪花者の相互作用の中で、花の色がどう進化してきたのかを考察し、送粉者を巡る植物種間の相互作用の理解を深める上で、重要な役割を果たすだろう。