| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-129 (Poster presentation)
20世紀以降、植林や管理放棄による森林化などによって日本国内の半自然草原は減少し続けている。一度失われた半自然草原は、管理再導入などにより草原再生が試みられてきたが、数十年経過しても多様性再生が十分ではないことが指摘されている。
そこで本研究は、群集における植物と送粉者の相互作用網である送粉ネットワーク(NW)に着目した。管理再導入後の再生草地では、植物および送粉者の多様性が低く、送粉NWのジェネラリスト化を促進させうる。ジェネラリスト度が高い送粉NWでは、植物種間の繁殖干渉や低い送粉効率を招くため、植物の繁殖成功が低いと考えられる。
本研究では、「森林化による草原性虫媒植物種の多様性減少の影響で送粉NWがジェネラリスト化した状態が長く維持され、植物の繁殖成功が低く抑えられている」ことが再生草地における草原性植物の多様性回復が停滞する要因の1つにあると仮説を立て、これを検証した。
2021-2022年に長野県菅平高原スキー場で、牧草地を利用してゲレンデ利用している「古草原」5地点と、放棄草原に成立した森林を伐採してゲレンデ利用している「新草原」10地点において、虫媒植物と訪花者の関係を観察した。また、植物繁殖調査として、計15植物種で同種・異種の柱頭付着花粉数を測り、そのうち5植物種で受粉実験を行い、その結実率から花粉制限を評価した。
結果から、新草原では、古草原と比べて、植物種数が有意に低く、送粉NWがジェネラリスト化しており、自種花粉が減少することで花粉制限が高くなることが示唆された。本研究は、半自然草原を再生しても植物の多様性回復が進まない要因として、送粉ネットワークによるフィードバックが存在することを示唆する初めての報告である。