| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-132  (Poster presentation)

三花寄れば送受が増える?:ハナウドの花密度が訪花昆虫による送受粉におよぼす影響【A】
Effects of flower density on pollination by flower-visiting insects in Heracleum sphondylium var. nipponicum.【A】

*田中歩(筑波大学)
*Ayumu TANAKA(University of Tsukuba)

自然界の多くの植物は、しばしば多数の小さな花を集合させた花序をつける。このような「密集花序」をつける植物には、さまざまなタイプの訪花昆虫を誘引し、うまく送受粉に役立てているものが多い。しかしながら、密集花序が送受粉の量や効率にどのように役立っているのか、実験的に調べた例はない。そこで演者らは、密集花序は「さまざまなタイプの昆虫に花間を歩いて移動させることで送受粉の量や効率を高める効果を発揮している」という仮説を立て、ハナウドを対象とした野外実験による検証を試みた。筑波山麓のハナウド自生地において、開花個体30株の小散形花に、次の3種類の処理を施した:コントロール(無処理)、全体の2/3の隣り合う小花をまとめて除去(縮小処理)、全体の2/3の小花を1~2個おきに除去(間引き処理)。間引き処理は無処理や縮小処理と異なり小花の密度が低いため、訪れた昆虫が小花間を歩いて移動しにくくなるはずである。このことが送受粉の機会にもたらす影響を、2種類のデータによって確かめた。まず、訪れた昆虫が小花を1つ採餌するたびに、そこまでの移動~採餌中に身体を接触させた小花の総数を計測したところ、間引き処理でのみ有意に減少していた。ただし、昆虫のタイプによっては、そのような減少がほとんど見られないものもあった。次に、葯が接触した訪花昆虫の体表部位を蛍光パウダーで調べたところ、間引き処理では無処理と比べて胸部への接触が減少することがわかった。これらの結果は、密集花序の形成が、複数タイプの昆虫による送受粉の機会を促進することを示唆する。ただしこうした送受粉の機会の促進は、小花あたりの胚珠数が2個しかないハナウドの結実率(雌の繁殖成功)を、有意に向上させることはなかった。今後は、密集花序による送受粉の機会の促進が、花粉分散(雄の繁殖成功)にもたらす影響について調べる予定である。


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