| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-139 (Poster presentation)
ギフチョウ(Luehdorfia japonica)はアゲハチョウ科のチョウで、本州の各地に分布する。その幼虫は、ウマノスズクサ科カンアオイ属(Asarum)のカンアオイ節を食草とする。カンアオイ節(以下、カンアオイ)は日本列島で急速に多様化した植物群の1つである(Okuyama et al. , 2020)。ギフチョウの食草は、その産地のカンアオイに限定されることがあり、他地方産のカンアオイを与えて幼虫が順調に育つ場合と育たない場合がある。ギフチョウは、カンアオイの地理的変異に適応しながら分散したと考えられ、食草が異なる集団間では遺伝的交流が制限されている可能性が考えられる。
本研究では、ギフチョウとカンアオイの地理的変異の関連を明らかにすることを目的として、食草入れ替え実験を行った。食草入れ替え実験では、岐阜・富山・新潟の3産地を用いて、食草の地理的・系統的距離によってギフチョウ幼虫の生存・成長に影響が見られるかどうか確認した。その結果、食草の産地による有意な影響は見られず、幼虫の産地ごとに特性が見られるものもあった。この結果から、その食草を利用できるかどうかはギフチョウの地理的・系統的な距離によるものではないことが示された。
一方、カンアオイの種類ごとにギフチョウ利用のされ方には差がある。そこで、ギフチョウ利用のされ方が異なる2種のカンアオイに着目し、ギフチョウ利用状況と環境要因について明らかにすることを目的として、分布調査を行った。岐阜県に生育する、ギフチョウがよく利用するヒメカンアオイと、利用が少ないとされるスズカカンアオイの2種の分布を調査し、可児市では分布境界を発見した。関ケ原市では、可児市との分布傾向の違いが確認された。これらの調査から、2種の分布と標高など環境要因との関連性が示唆された。
今後、ギフチョウが2種のカンアオイをどのように利用しているのか明らかにし、2種のカンアオイが生育する環境要因について探るため、調査を進めていく。