| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-142 (Poster presentation)
近年の気候変動の影響から急速に植物の分布が変動していることが問題となっている。特に高山・亜高山帯に生息する植物は、標高による分布限界が存在することや、低温環境に適応した種が多いことから気温上昇に対し感受性が高いことが指摘されている。このような植物の分布変動は生物間相互作用や植物種をとりまく生態系のネットワークに大きな影響を及ぼすと考えられている。しかし、その解明に不可欠な⻑期モニタリングデータは、調査期間が数十年に満たないものがほとんどであり、100年スケールで植生の長期応答を検証できるデータは少ない。そこで本研究ではより脆弱な生態系とされる湿原群集を対象に、昭和初期のデータを元にした再調査を行う事で、そこにおける植生の時間的変化の要因を明らかにした。
本研究は1933年に調査された青森県八甲田山域に点在する湿原の植生データを用いた。そのうち、現在も湿原であり調査可能な9地点10サイトを対象に2020年にフロラ調査を行った。そして、過去にも現在にも出現した種を対象に種の出現被度と生物学的要因の関係性及び、サイトが保有する種の豊富さと空間要因の関係性を調査した。
湿原群集は時間経過によってその空間構造を変化させたことが明らかになった。また木本種や非湿原種の出現頻度が増加していたことから、空間構造の変化は湿原の周囲に広がる森林からの移入によって引き起こされることが示唆された。これは気候変動に伴う雪解けの早期化や乾燥化によるものであると考えられる。また、孤立度とサイトが保有する種の豊富さに負の関係性があることが明らかになった。一方で、面積には関係性が見られなかった。このことからも移入の容易さが湿原の空間構造の変化に影響を与えていることが示唆された。これは過去から現在にかけて面積の小さな湿原が喪失したことが影響しているのではないかと考えられる。