| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-146  (Poster presentation)

多雪山間地における主要山菜ゼンマイの分布と生活史【A】
Spatial distribution and life history of the Asian Royal Fern, Osmunda japonica, a major edible wild plant in the heavy snowfall region, Japan【A】

*武藤実緒(横浜国立大学), 近藤博史(横浜国立大学), 木澤遼(横浜国立大学), 中野陽介(只見町ブナセンター), 酒井暁子(横浜国立大学)
*Mio MUTO(Yokohama National University), Hirofumi KONDO(Yokohama National University), Ryo KIZAWA(Yokohama National University), Yosuke NAKANO(Tadami Beech Center), Akiko SAKAI(Yokohama National University)

 ゼンマイは多雪山間地で多く採集され、地域の文化や経済に関連する重要な生態系サービスを提供する。しかし過疎化などで利用は縮小し、同時に生息地の情報が失われつつある。ゼンマイの生態を扱った研究は少なく、保全・管理に必要な情報は不足している。本研究では、天然ゼンマイの代表的な産地である福島県只見町(只見ユネスコエコパーク)において、ゼンマイ個体群の(1)集水域スケールでの分布パターンと、(2)生活史と採集対象サイズの関係を調べた。
(1)ゼンマイ紅葉期に集水域内の172haをUAVで空撮した。画像をGIS上で5m区画に分割し、成熟個体1個体のサイズに概ね対応する被度10%を基準にゼンマイの存否を評価した。環境情報をDEM等から得てGLMで分布予測モデルを作成し、変数選択を行った。北向き・急斜面・1110m四方と15m四方で評価した凹地・ガリー近傍で出現確率が有意に高いとの結果を得た。空撮画像よりゼンマイ存否が確認できない高木林は解析から除外したが、そのうち流路付近の11haで5m区画ごとに葉長1m以上の個体の存否を調査し、同様の分布予測モデルを作成した。急斜面・15m四方で評価した凹地で出現確率が有意に高かった。聞き取りによる採集場所に関する先行研究と併せると、採集行為はゼンマイ分布の中心に集中していることが確認できた。
(2)集水域の谷底部流路沿い(1km)に、幼胞子体調査区(15cm方形区×29)と成熟個体調査区(2m方形区×20)を設置した。出現した計約530個体について、栄養葉の形状から6つの生育段階に分類し、2ないし3年間追跡調査を行い、推移行列モデルより生存確率曲線、各生育段階の到達年齢と余命、繁殖開始年齢を算出した。地元住民が採集したゼンマイの直径から採集対象サイズを推定しモデルに含めた。その結果、採集対象サイズ到達よりも繁殖開始が早いと推定された。
 よって、伝統的な採集活動はゼンマイの個体群の持続可能性を損ねるリスクは低いと考えられた。


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