| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-148 (Poster presentation)
ヒノキ科ビャクシン属のオキナワハイネズ(Juniperus taxifolia var. lutchuensis)は、南西諸島をはじめ、伊豆諸島や伊豆半島などの海浜環境に生育する匍匐性の針葉樹である。本種は小笠原諸島の固有種シマムロ(J. taxifolia var. taxifolia)の変種とされるが、シマムロは林内に生育して低木化するなどの異なった生態的特徴を示す。また、北海道と本州の海岸に分布する近縁種であるハイネズ(J. conferta)は、葉形態によってオキナワハイネズと区別されるが、関東・東海沿岸や種子島・九州南部などでは、両種の中間的形質を持つ集団が見られる。さらに、伊豆地域の集団は「オオシマハイネズ」と呼ばれて南西諸島集団から区別されることもあるなど、その実体がわかっていない。このように、オキナワハイネズ近縁種群には種間関係について明らかにすべき問題が多く含まれている。
本研究では、これらの分子系統地理学的関係を明らかにすることを目的として、南西諸島から10集団101個体、種子島および九州南部から2集団16個体、伊豆諸島および伊豆半島から5集団43個体(以上を広義オキナワハイネズ)、小笠原からシマムロ3集団77個体、本州各地からハイネズ8集団72個体を採集し、外群を含めて379個体を対象にMIG-seq法によるゲノムワイドSNPsに基づく遺伝解析を行った。
系統解析の結果、広義オキナワハイネズとハイネズは単系統群を形成し、シマムロとは単系統にならなかった。シマムロは台湾産の種とクレードを形成し、オキナワハイネズがその変種であるとする位置付けは支持されなかった。また南西諸島の集団、種子島・九州南部の集団、伊豆地域の集団(オオシマハイネズ)はそれぞれ明瞭に分化し、オオシマハイネズは関東・東海沿岸のハイネズと近縁であった。解析結果を総合的に判断すると、広義オキナワハイネズとハイネズは、まず南西諸島を中心とする南方集団と本州集団が分化し、その内部でさらに地域ごとに分化したと考えられた。