| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-150  (Poster presentation)

海浜植物シロヨモギの地理的遺伝構造と遺伝的多様性【A】
Geographic genetic structure and genetic diversity of the coastal dune plant Artemisia stelleriana.【A】

*阿部春乃(新潟大学), 武田浩太(新潟大学), 長谷川陽一(森林総合研究所), 内山憲太郎(森林総合研究所), 森口喜成(新潟大学)
*Haruno ABE(Niigata university), Kota TAKEDA(Niigata university), Yoichi HASEGAWA(FFPRI), Kentaro UCHIYAMA(FFPRI), Yoshinari MORIGUCHI(Niigata university)

砂浜に生育する海浜植物は,飛砂の発生や砂の移動・流出を抑止する効果があり,重要な役割を果たしている。しかし,近年,埋め立てや護岸整備などの沿岸地域の開発や車の乗り入れなどによって海浜植物は減少してきている。シロヨモギ(Artemisia stelleriana)はキク科ヨモギ属の多年生草本で,アジア北東部の亜寒帯から温帯にかけて広く分布している。日本では新潟県・茨城県を南限として北海道までの砂浜に分布するが,本州の5つの県で県指定絶滅危惧種に指定されている。シロヨモギに関する研究は日本だけでなく国外でもほとんど行われておらず,生態的・遺伝的知見はほとんどなかった。そこで本研究では,まず生態学的な調査を行い,シロヨモギは自家和合性で,主に風媒の花粉散布,短距離型の海流種子散布,クローン繁殖によるジェネットサイズは小さい(50cm四方程度の範囲)事を明らかにした。次に,北海道4集団,青森県,岩手県,秋田県,宮城県,山形県の各1集団,茨城県2集団,新潟県3集団の計14集団442個体を用いて核 SSRマーカー11座による解析を実施した。得られた遺伝子型に基づいて遺伝的多様性(ARHoHe)を評価した結果,北海道の北部に位置する2集団と青森集団では,遺伝的多様性は高かったが(例えば,集団の平均Ho: 0.449〜0.705),本州の他の11集団では低い値を示した(Ho: 0.003〜0.099)。系統樹では,北海道集団,太平洋側集団,日本海側集団をそれぞれ含む3クレードに大別された。発表では,本研究で得られた結果を報告するとともに,昨年実施した葉緑体DNAのシークエンス解析(6領域2,082bp)で得られた,北海道では4つのハプロタイプが検出された一方で本州ではその内の1つのハプロタイプしか検出されなかったという結果と合わせて,シロヨモギ集団がこれまでに経験してきた集団動態(集団サイズの拡大・縮小)について考察する。


日本生態学会