| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-154  (Poster presentation)

琉球列島における照葉樹林構成種の遺伝的多様性の分布【A】
Distribution of genetic diversity in evergreen broadleaved forests in the Ryukyu Islands【A】

*本宮万愛(東北大・農), 髙橋大樹(東北大・農), 田金秀一郎(鹿児島大・博物館), 渡邊謙太(沖縄高専), 内貴章世(琉球大・熱生研), 陶山佳久(東北大・農)
*Mana MOTOMIYA(Tohoku Univ.), Daiki TAKAHASHI(Tohoku Univ.), Shuichiro TAGANE(Kagoshima Univ. Museum), Kenta WATANABE(NIT, Okinawa KOSEN), Akiyo NAIKI(TBRC, Univ. Ryukyus), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.)

琉球列島における生物の分布には、地史的なイベントが強く影響してきたと考えられている。中でも数百万年前に形成されたとされる2つの地理的ギャップ(トカラギャップ・ケラマギャップ)は、多くの植物の分布や遺伝的集団構造に強い影響を与えたとされる。しかし琉球列島の主要森林構成種に及ぼした影響は調べられておらず、植生全体の包括的な理解には至っていない。そこで本研究では、琉球列島における照葉樹林の主要構成種であるスダジイを含む、琉球列島のブナ科6種(スダジイ、オキナワウラジロガシ、ウラジロガシ、アマミアラカシ、ウバメガシ、マテバシイ)の合計534サンプルを対象に、MIG-seq法を用いた集団遺伝解析を行い、遺伝的多様性や分化の実態、過去の動態を明らかにした。その結果、6種で共通するSNP情報に基づいて種および遺伝的多様性の分布を評価すると、屋久島や種子島、沖縄本島北部において多様性が高いことがわかった。また遺伝的集団構造解析の結果、どの種においてもギャップを挟んだ主要地域集団間での遺伝的分化が認められた。ただし、最も広域に分布するスダジイでは地域間の分化は比較的弱かった一方で、分布域の狭いウバメガシとマテバシイでは地域間での明瞭な分化が認められた。また各種の主要地域集団間の分岐年代を推定した結果、どの集団の分岐もおよそ6万〜12万年前と推定された。この時期はギャップの形成時期と比べて明らかに新しいことから、ギャップ形成後も地域集団間での遺伝子流動があったことが示唆された。さらに有効集団サイズ変化の推定の結果、ほとんどの集団で最終氷期から現在にかけて大きく減少した変化が推定された。本研究のように、地域植生を構成する主要な複数種を対象とした分子系統地理学的研究は、遺伝的多様性情報の包括的な把握の一助となり、さらに生物多様性保全のための情報として活かすことができる。


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