| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-157  (Poster presentation)

ブナ林における24年のギャップ形成過程をドローン画像と毎木調査から探る【A】
Analyzing gap formation processes over the past 24 years in a beech forest using a drone image and tree census data【A】

*坂詰七美(山形大学), 蒔田明史(秋田県立大学), 富松裕(山形大学)
*Nanami SAKAZUME(Yamagata Univ.), Akifumi MAKITA(Akita Prefectural Univ.), Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.)

日本のブナ林は、林床に常緑のササ類を伴うことが多く、密生するササは樹木の実生更新を妨げる。ササ類は数十年から100年を超える長い生涯において一度だけ、広い範囲で同調的に開花・枯死する性質をもち、ササの一斉枯死はブナにとって更新の好機となる可能性がある。しかし、気候変動も進行する中で、ブナ林が今後も安定に維持されるのかは明らかではない。ブナ林の動態を把握する方法として、林冠ギャップの形成・閉鎖過程を長期にわたり分析することは有効だと考えられるが、実際に行われた事例は少ない。
秋田県十和田湖南岸のブナ林では、林床にチシマザサが密生しており、ギャップの割合が約3割を占める。本研究では、このブナ林に設けられた約2 haの調査区を対象として、1996年から継続して行われてきた毎木調査のデータと2017年以降にドローンで撮影された林冠画像をもとに、過去24年間のギャップ形成過程の推測を試みた。
まず、現地での樹高観察をもとに、林冠に到達する胸高直径(DBH)の閾値を推定し、過去に記録された枯死木のうち林冠に到達していた可能性が高いものを特定した。次に、現存する樹木のDBHと樹冠面積との関係から、過去に枯死木によって形成されたギャップ面積を推定した。
その結果、調査区では毎年平均3.0本の林冠木が枯死し、173.0 ㎡のギャップが形成されていたが、ギャップの形成速度は調査期間によって大きく異なっていた。面積が100 ㎡を超える大きなギャップは全てブナの枯死によるものであった。最もギャップの形成速度が大きかった2005~2008年には小さなホオノキが多数枯死しており、暴風雪による影響が考えられた。また、近年の林冠画像から、小さなギャップの多くは現在までに概ね塞がっていたが、大きなギャップの大部分は現在でも閉鎖していなかった。今後は、森林動態を更に明らかにするために、ギャップの閉鎖過程を分析する予定である。


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