| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-160  (Poster presentation)

出芽酵母の種内多型にみられる適応度の頻度依存性と個体群成長に対する多様性効果【A】
Balancing selection and diversity effect on population growth in Saccharomyces cerevisiae【A】

*太田甫(千葉大・院・融合), 大谷一真(千葉大・院・融合), 松浦彰(千葉大・院・理), 村上正志(千葉大・院・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Hajime OTA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Kazumasa OYA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Akira MATSUURA(Grad. Sci., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生態系における種の多様性は、生産性や安定性といった生態系の機能を向上させることがあり、このような効果は多様性効果と呼ばれる。多様性効果は、種間でのニッチ分割に起因して生じると考えられている。近年、個体群においても遺伝的に多様な個体群は、画一的な個体群に比べて増殖率や環境収容力が高くなる、遺伝的多様性での多様性効果が存在することが指摘されている。多様性効果の方向性や強さは、その背景で働く選択圧のパターンに左右されることが理論的に示されている。少数派になるほど相対適応度が高くなる負の頻度依存選択のもとでは、多様性は個体群の増殖率を高めるように働くのに対して、多数派の適応度が高くなる正の頻度依存選択のもとでは、増殖率を低めるように働くと予想されているが、選択圧のパターンと多様性効果の方向性や強さの関係を実証した例はほとんどない。本研究では、モデル生物として知られる出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの、ガラクトース代謝に関する2つの表現型変異株(GAL-ON株とGAL-OFF株)をもちいて、選択圧と多様性効果の関係に関する予測を検証した。具体的には、2つの株をさまざまな初期頻度で混合培養し、環境収容力に対する多様性効果を評価した。このとき、培地中のガラクトースとグルコースの濃度を変えた9通りの培養条件を準備することで、選択圧のパターンの変化を促した。その結果、低グルコース/高ガラクトース条件では環境収容力に対する正の多様性効果が、高グルコース/低ガラクトース条件では負の多様性効果が検出された。各条件でのそれぞれの表現型の頻度変化と適応度から、選択圧の検出を試みたところ、正の多様性効果が生じた条件では負の頻度依存選択、負の多様性効果が生じた条件で正の頻度依存選択が検出された。これらの結果は、集団内で多様性が共存しうる条件と、多様性が個体群の増殖率に対して正の影響を与える条件は、一致していることを示唆している。


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