| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-165  (Poster presentation)

局所スケールにおけるスミレ属2種の共存様式:環境要因と種間相互作用に着目した検討【A】
Distribution patterns of two Viola species at the local scale: role of environmental factors and interspecific interaction【A】

*伊藤嵩将, 渡部俊太郎(鹿児島大学)
*Takamasa ITO, Shuntaro WATANABE(Kagoshima Univ.)

近縁植物種は水分や光環境に対する生理的な要求が似ているため、その生育環境を共有しやすいと考えられる。しかし近縁種の間には種間競争や繁殖干渉のような負の相互作用も生じるため、実際に見られる分布パターンは生育場所の選好性と種間相互作用を反映したものとなる。特に、繁殖の過程において適応度の低下をまねく種間の送受粉(繁殖干渉)は、近縁種間の競争排除を引き起こし、共存を妨げることが報告されている。しかし植物には自動自家受粉をおこなう種が存在しており、こうした種は種間送粉の影響を受けにくいため、近縁種が局所的に混生する可能性が指摘されている。ただし、自殖による繁殖成功は近交弱勢などの種内の遺伝的要因にも影響されることから実態は複雑であり、自動自家受粉を行う種が二次的に接触した場合の繁殖干渉の働き方とその生態学的帰結についての研究はまだ限定的である。
そこで本研究では、都市部の狭い範囲で共存するスミレ属2種(スミレとリュウキュウコスミレ)を対象に近縁種間の分布パターンについて検証し、その形成要因について様々な可能性を検討した。
種間の排他的な関係性を表す統計量(Cスコア)を計算した結果、実測されたCスコアは帰無モデルの予測に対して有意に高く、2種の分布は排他的であることが示唆された。それに対し、2種の環境勾配に沿った分布パターンは、スミレが明るい環境を好む傾向を示した一方、リュウキュウコスミレはさまざまな環境に満遍なく分布する傾向を示した。このことから環境要因単独で2種の分布を説明することは難しいと考えられた。種間の人工授粉実験の結果は、スミレの花粉が付着した際にリュウキュウコスミレの結実率が低下する傾向が見られ、種間の繁殖干渉が存在している可能性が考えられた。これらのことから、2種の選好性の違いと非対称な相互作用の2つの要因が排他的な分布の形成に関わっている可能性が示唆された。


日本生態学会