| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-167 (Poster presentation)
多くの樹木で観察されるマスティングは、個体群で同調した準周期的な結実の豊凶である。近年、世界各地でマスティング周期の変動が報告されており、気候変動とマスティングの関係について全球規模で探られつつある。一方、岩手県の2つの森林のミズナラを対象とした解析では、約100 kmの距離に位置する森林間でも結実周期の変化のパターンが異なっていた。周期性の変化は個体群全体に一貫した反応の結果なのか、はたまたある個体の影響が大きく反映しているかは、個体群内の各個体について検討しなければ区別できない。そして、それらの違いはその個体群の持続可能性を評価する上で重要である。従って、全球的な変化と同時に、個々の森林で起きている個体ベースの変化についても把握する必要がある。
本研究では、岩手県の冷温帯落葉樹混交林であるカヌマ沢試験地における1990~2014年の25年間の種子生産について、ブナ、イタヤカエデ、ミズナラ、トチノキ、サワグルミを対象に、特に個体ベースでの種子生産の長期的な変化に着目した。個体の種子生産数は、落下種子の個数、母樹のサイズ、それらの位置関係を組み込んだモデルにより推定した。
個体群の結実周期の長期パターンは、ブナでは1990年代の周期性が顕著だった一方で、サワグルミでは2005年以降に周期性がより顕著になった。カヌマ沢では近年、サワグルミの成長が著しく、それが種子生産にも反映していた。一方ブナでは、豊作年に同調して大量結実する個体の減少が示唆された。また、10年単位での個体間の結実同調性の検討より、ブナでは1990年代の同調性が高く、近年は低下する傾向にあった。
以上のことから、個体群レベルでの種子生産の変化は個体の種子生産強度と結実同調性の変化に起因している可能性が高く、個々の個体群の持続可能性の評価におけるそれらの個体ベースの現象の重要性が示された。