| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-168  (Poster presentation)

高山環境に生育するキバナシャクナゲの結実特性:風衝地集団と雪田集団の比較【A】
Fruiting properties of Rhododendron aureum growing in alpine environments: a comparison between fellfield and snowbed populations【A】

*高橋佳吾, 工藤岳(北海道大学)
*Keigo TAKAHASHI, Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

高山帯では雪解け傾度によって生じるマイクロハビタットが重要な意味を持つ。雪がほとんど積もらない風衝地と夏まで雪に埋もれている雪田は、対照的なハビタットである。キバナシャクナゲRhododendron aureum は高山性のツツジ属植物であり、風衝地と雪田の両方に生育する。風衝地集団の開花期は6月であり、主要送粉者はマルハナバチ属の越冬女王である。一方、雪田集団は7月中旬から8月上旬にかけて開花し、マルハナバチ属のワーカーによって送粉される。ワーカーは多くの果実を稔らせてくれるが、女王よりも花間移動距離が短く、隣花受粉を発生させやすい(Kudo et al. 2011)。これらの違いは両集団の交配システムに異なる進化をもたらす可能性がある。
本研究では、キバナシャクナゲの結実特性に関して以下のような予想を立てた。第一に、風衝地集団は雪田集団よりも果実あたりの胚珠数が多い(ovule packaging strategy; Burd 1995)。第二に、果実サイズは生産種子数に依存し、その傾向は集団間で異なる。第三に、果実サイズは作られた種子の他殖率にも依存し、その傾向は集団間で異なる。これらの仮説を検証するために、風衝地集団と雪田集団で各40花序の花数と果実数を記録した。また、各集団で20花序の果実を採取し、果実長・種子数・胚珠数・種子重をデータ化した。更に、7つの遺伝子座によるマイクロサテライトマーカー解析で果実あたりの他殖率を推定した。
その結果、果実あたりの胚珠数は風衝地集団で503.8 ± 27.3個、雪田集団で406.7 ± 17.5個であり、風衝地集団の方が有意に多かった。他殖率は風衝地集団で約90%、雪田集団で約70%であり、集団間で有意差があった。果実長と種子数には強い相関が見られたが、果実長と他殖率の関係性は低く、集団間で傾向に違いはないことが判明した。以上から、キバナシャクナゲの胚珠数には個体群による違いがあり、果実成長は種子数に依存することが明らかとなった。


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