| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-170  (Poster presentation)

温暖化が引き起こすオオバナノエンレイソウと送粉昆虫のフェノロジーのミスマッチ【A】【B】
Phenological mismatch between spring ephemeral Trillium camschatcense and pollinators responses to climate warming.【A】【B】

*石田隆悟(北大・理学部), 都築洋一(北大・院・環境科学), 大原雅(北大・院・環境科学)
*Ryugo ISHIDA(Hokkaido Univ. Science), Yoichi TSUZUKI(Hokkaido Univ. Env. Science), Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

 生息地の温暖化は様々な生物活動の季節性(フェノロジー)に変化を生じさせる。温度上昇への生物応答は種によって異なりフェノロジーの変化の方向性や度合いが異なる。したがって同所的に生息し、従来活動時期が重複していた種間で活動時期のずれが生じ、相互作用の減少が予想される。オオバナノエンレイソウは春に林床で開花する虫媒性の多年生草本でありハエ目・コウチュウ目による送粉を行う。特に北海道十勝地方の集団は自家不和合性を示すことから、送粉を昆虫に依存しており、昆虫との活動時期のミスマッチが生じた場合繁殖成功度に負の影響が表れやすいと考えられる。
本研究では過去60年の春の温度上昇の傾向に基づいて同じ十勝地方に位置しながらも温暖化が比較的顕著な内陸部(帯広)とより穏やかな沿岸部(広尾)で調査を行い、結実状況を比較することで温暖化による送粉昆虫との活動時期のミスマッチを検出し、それが繁殖成功度に及ぼす影響を検討した。
オオバナノエンレイソウの開花率・送粉昆虫の飛翔個体数・訪花頻度の経時観察からどちらの集団でも開花ピークに対し、昆虫の出現・訪花が先行していることが分かった。さらに開花期間を1週間毎に分割し、袋掛け処理により分割した週でのみ訪花が可能な状況を作ったところ、訪花の多い開花期間前半で結実率が高くなり昆虫の活動及び訪花の偏りが結実率にも反映されることが分かった。
活動ピークのずれは内陸部で1週間、沿岸部で2週間であり沿岸部で自然状態の結実率が内陸部より低かった。したがってより大きなミスマッチは繁殖成功度に悪影響を及ぼすことが示唆された。しかし過去60年の温度上昇が比較的穏やかな沿岸部でより大きなミスマッチが検出されたため、温度以外の環境要因の考慮が必要である。また調査年による年変動の影響もあり、長期的な温度上昇の傾向が常にミスマッチの大きさとして検出されるとは限らないため、経年調査も必要である。


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