| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-171  (Poster presentation)

カンサイタンポポの閉花タイミングにおける性的対立は送粉者制限下で顕著になる【A】【B】
Enhanced sexual conflict through inflorescence closure under pollinator limitation in Taraxacum japonicum【A】【B】

*中土井洋平太(神戸大学), 丑丸敦史(神戸大学), 京極大助(人と自然の博物館)
*Yoheita NAKADOI(Kobe Univ), Atushi USHIMARU(Kobe Univ), Daisuke KYOGOKU(Mus. Nature & Human Activities)

性的対立は雌雄で繁殖に関する最適値が異なる際に生じる。交配相手との性的対立に関する研究の多くは動物を対象にしており、植物では花内の機能間対立のような個体内対立(干渉)が扱われてきた。カンサイタンポポ(Taraxacum Japonicum)では受粉から数時間で花序が閉じる現象(以降早期閉花)が知られており、閉花タイミングは種子親/花粉親の遺伝的な影響を受ける。種子親は一定時間開花することで十分に花粉を受け取ることが適応的である一方、花粉親は閉花が早いほど自身の父性が確実になると予想される。そのためこの閉花タイミングに関して、両性間で最適な閉花タイミングが異なり、性的対立が生じる可能性がある。本研究ではカンサイタンポポの閉花タイミングにおいて、植物における個体間(種子親―花粉親間)性的対立の可能性を示すことを目的としている。そのために本家研究では実証のために早期閉花が①種子親の繁殖成功に負の影響を与える、②雄間競争を緩和する、の二条件を検証した。
①に関して、早期閉花後も未受粉小花が稔性を保っていたことが示された。また早期閉花した花序で花粉制限が検出された。花粉制限が見られたのは花序が低訪花頻度環境下にある場合であり、早期閉花が種子親個体の雌機能に与える影響は訪花環境によって変化することが示唆された。
②に関しては、閉花時点で花粉管が胚珠に到達していなかったことから早期閉花による花粉管競争緩和の可能性が示唆された。また結実率が種子面積に影響を与えている可能性が示唆されたことから、早期閉花による資源競争緩和の可能性も示唆された。
一連の実験結果から、カンサイタンポポの閉花タイミングにおける性的対立の存在が示唆された。また対立の強さが訪花頻度に依存して変化すると予想される。本研究は植物における個体間の性的対立を示した数少ないものであり、花寿命の研究において雌の適応度だけでなく、性的対立の視点を考慮する必要性を示唆している。


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