| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-173 (Poster presentation)
現代は都市化など人為的な環境改変によって植物の生育地が大きく変化する。そうした都市部における植物の適応進化の実態解明は、生活史や生存に関する形質特性を理解するうえで重要な研究課題である。都市環境に対する植物の適応進化は、都市と隣接する半自然生態系との比較によって評価されてきた。しかし、都市に残存する農地や都市公園、路傍のアスファルトの隙間のように、都市環境でも多様な生育環境が創出されている。近年、都市の生育地間における表現型形質の変異が報告される一方で、遺伝構造が地理的距離か生育環境の違いのどちらによって類似するかは未解明である。
本研究では都市から里山環境に広く分布する在来一年生草本ツユクサを対象に、多様な都市生育地における集団間変異は遺伝的基盤をもつか、可塑的な応答かを検証した。兵庫県、大阪府、京都府内において、里山水田、都市水田、都市公園、都市路傍から種子を採取し、同一栽培実験環境下で機能形質(植物高や葉数)および開花形質(開花開始日)などを測定した。次に葉サンプルを用いてMIG-seqによる集団遺伝解析を実施し、185サンプルから639座のSNPを得た。形質データから表現型形質分化の指標QSTを、集団間の中立遺伝子座における遺伝的分化の指標FSTを算出した。遺伝的基盤をもつ表現型形質は都市の生育地に対する適応進化か中立進化であるかをFSTとQSTの値を比較し検討した。最後に地理的距離と遺伝的距離の相関の有無をマンテル検定により検証した。
栽培実験の結果から、里山集団と比べて都市水田・路傍集団で植物高が増加し、都市公園・路傍集団で葉数が低下した。また開花の開始日は里山集団と比べ都市水田集団では有意に遅かった。FSTとQSTの比較の結果、植物高と開花の開花日など局所適応がみられた一方で、個体あたりの葉数は安定した形質である可能性が示唆された。また都市水田のみで地理的距離と遺伝的距離に正の相関がみられた。本発表ではこれらの結果をふまえて議論する。