| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-174 (Poster presentation)
近年、産業の高度化に伴う夜間照明の増加が、生物に悪影響を与えていることが注目されている。特に、植物は開花時期の決定要因として光周期を利用しており、夜間照明の増加による光周期の変化は、開花時期の季節性を変化させることが予測される。その場合、必ずしも光周期の変化で季節性が変化するわけではない送粉者との間に、季節的ミスマッチが生じること可能性が危惧される。ミスマッチの発生は花粉媒介の機会をも低下させる可能性があることから、夜間照明の影響は、植物の繁殖成功にまで波及する可能性が高い。しかし、現時点で、夜間照明を介した植物の開花と送粉者活動時期との関係を明らかにした事例はない。そこで本研究では、野外に設置された街灯下に生育する春植物を対象に、街灯の有無による開花時期の違い、および送粉者の活動時期との季節的ミスマッチの発生、ならびにそれに伴う植物の繁殖成功への影響について、実環境で検証した。なお、調査地には白色と琥珀色の2色の街灯が設置されていたことから、照明の色による影響の違いについても検証した。その結果、調査地の優占種であるカラスノエンドウ、ナヨクサフジ、ヒメジョオンの3種の春植物の開花時期が、無灯区と比較して両色の街灯下にて早期化していた。また、カラスノエンドウとナヨクサフジにおいては、街灯下で送粉者の活動時期とのミスマッチの発生が示唆された。さらに、カラスノエンドウは両色の街灯下で、ナヨクサフジでは琥珀色の街灯下で、種子生産量が低下していた。以上のことから、夜間照明がもたらす開花の早期化が送粉者活動とのミスマッチの発生を駆動し、種子生産、すなわち繁殖成功・適応度にまで影響が波及していた実態が明らかとなり、夜間照明の生態学的脅威を示す重要な知見となった。