| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-181 (Poster presentation)
一般に個体の生存と繁殖にはトレードオフがある。一年草は繁殖器官への資源配分を多くし、短い寿命でより多くの繁殖を行うのに対し、多年草は地下部への資源配分を多くして寿命を長くしている。しかし、生物界全体を通じて、寿命の適応進化や自然変異がどのような遺伝子によっているのかは、ほとんど分かっていない。ミヤマハタザオArabidopsis kamchatica ssp. kamchaticaはモデル植物・シロイヌナズナA. thalianaと近縁で、幅広い標高に分布する標高万能植物である。日本の中部地方では0mから3000mまで幅広く分布し、標高によって様々な形質が異なることが我々のグループによって確かめられてきた。低標高集団は一年草型の生活史を送り、高標高集団は多年草型の生活史を送るという寿命多型がある。これらの集団由来の植物を共通環境で栽培すると、低標高集団の植物は高標高集団の植物よりも、資源配分の繁殖器官/栄養器官比が高く、寿命よりも繁殖を優先する生活史が遺伝的に進化していることが分かった。
そこで、寿命多型の遺伝的背景を明らかにすることを目的に、低標高の島々谷川集団と高標高の白馬岳集団の間で交配家系を作出した。160個体の交配第2世代(F2)を共通環境で栽培したところ、資源配分の繁殖器官/栄養器官比の分散が親集団(P)に比べて大きく、資源配分にかかわる遺伝的多型がF2の中に存在していることが確認できた。これらのF2個体の繁殖開始時に各個体から葉1枚を採取してRNA保存液を用いて保存した。現在、これらのF2個体に親個体(P)2個体を加えた162個体からDNAとRNAの抽出を進めている。得られたDNAを用いてMIG-seqを遺伝マーカーとする量的遺伝子座(QTL)マッピングを行う予定である。また、得られたRNAを用いてRNA-seqを行うことで、繁殖開始時に発現量が異なる遺伝子を、資源配分の多型にかかわる遺伝子の候補として探索する予定である。