| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-187 (Poster presentation)
樹木の樹冠の発達過程において,コナラを対象とした研究で親枝上の位置の違いによる当年生枝の発生率が樹冠部の葉量の維持に関与していることが明らかにされている(高井1999)。本研究ではコナラと対照的な,陰樹で常緑樹であるサカキ(Cleyera japonica)を研究対象とした。複数の閉鎖林内に生育するサカキ12個体から5年生以上の側枝を無作為に採取し,枝の年齢毎にナンバリングすることで各年の枝数・葉量についてのデータを取り,枝の分岐構造や葉量の蓄積についての解析をおこなった。採取したサンプル枝において,枝年齢が1年若くなるにつれて枝数が増加する割合(平均枝数増加率)を求めた。コナラでは多くの当年生枝を発生させ,冬季に半数を脱落させて分岐構造を形成するが,サカキは1度発生させた枝が脱落せず,そのまま長期にわたり成長していくという相違がみられた。また,いずれのサンプル枝においても2~4年生の葉の生存率が大きく減少しており,個体に関わらずこの期間が最も落葉数が多かった。葉の厚さは最高寿命が長い葉を持つサンプル枝で増加しやすく,葉の平均寿命とは相関関係がなかった。葉の加齢に伴いSLAが減少,すなわち葉の厚さや内部蓄積が増加する傾向があった。Kikuzawaモデル(Kikuzawa 1991)では加齢に伴う光合成速度の低下が早い葉で葉寿命が短くなることが示されている。葉は厚さや内部蓄積が増加するほど光合成能力が低下する(Onoda et al 2017)ため,今回の結果はKikuzawaモデルに適合すると考えられる。また,1つの枝内の葉齢とSLAの関係と、その枝の平均枝数増加率との間には有意な関係がみられ,分枝しやすい枝ほどSLAが減少しやすいことがわかった。相対光強度が樹冠上部ほど高く,サカキでは樹体上部に位置する枝ほど枝分かれが活発である(Suzuki 2002)ことから,葉の光合成能力と枝分かれの速度は密接に関係していることが示唆された。