| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-189 (Poster presentation)
消雪すると植物が経験する環境は大きく変化する。地温はそうした環境条件の1つであり、樹木の開葉時期に地温が影響を与える可能性が先行研究によって示されている。温暖化に伴う消雪の早期化は、地温の上昇時期を早めることで、落葉樹の開葉時期に影響する可能性がある。特に、雪解けの進行と同時に開葉する落葉樹は影響を受けやすいと考えられる。林冠木を対象とした消雪時期と開葉時期に関する知見は少なく、温暖化に伴う消雪時期の変化が森林の生産性にどのように影響するかを予測するための研究が必要である。本研究では早期開葉樹種のブナを用いて、消雪早期化が地温と林冠木の開葉時期にどのような影響を及ぼすかを解明することを目的とし、青森県八甲田連峰の標高の異なる2地点で6シーズン除雪実験を行った。分析の結果、両地点とも除雪処理の方が対照よりも除雪~開芽日までの地温が高いこと、また、除雪処理の方が対照よりも開芽日が遅延する年があることが分かった。冬芽内の成長に始まる開芽には土壌水を含む水分が必要とされていることから、除雪処理の方が根の活動に好適な温度条件であるにもかかわらず、開芽日の遅延が見られたことには土壌の乾燥が関与している可能性がある。さらに、なぜ開芽日に処理間差がある年とない年があるのかを検討するため、4月の平均気温と開芽日の日長および開芽日・開芽積算温度との関係を分析した。その結果、4月の平均気温と開芽日の日長の間には負の相関があり、日長が中程度の時期に開芽する年に開芽日・開芽積算温度の処理間差が生じていたことが分かった。以上の結果は、温暖化が進行した際、気温上昇による落葉樹の開葉時期の早まりを消雪の早期化が抑制することを示唆している。また、現在長日条件よりで開芽している高標高の個体は消雪早期化による抑制効果を受けやすく、短日条件よりで開芽している低標高の個体は受けにくくなる可能性がある。