| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-191 (Poster presentation)
広域に分布する植物種において、生育地環境の多様性は、それぞれの環境への適応を促進する事を通じて、種内の形質変異を引き起こし、最終的には種分化をもたらしうる。特に、多くの植物の生育に適さない極端な環境は、特有の形質変異による生育地適応を促進させることが知られている。
海浜環境は、強光や高温、乾燥、高塩分濃度など植物の生育には適さない過酷な環境の一つである。海浜環境下では、葉を厚くして保水力を維持したり、地中深くまで伸びる根茎をもつといった独自の適応を見せる植物が観察されている。しかしながら、海浜植物の形質の特徴については、野外環境下での形質観察にのみ基づくものが多く、特異な表現型形質が可塑的な応答であるのか、十分検証されていない。
そこで本研究では、海浜環境へ進出した植物にみられる形質の特徴を定量的に示し、それらの形質が可塑的な応答であるのかについて明らかにする事を目的として、スミレ(Viola mandshurica)とその海浜型変種アナマスミレ(V. mandshurica var.crassa)とアツバスミレ(V. mandshurica var.triangularis)の3種を対象とした形質(比葉面積、葉の乾燥重量比、クロロフィル量、根茎長、植物体縦横比)測定を野外環境及び温室栽培下で行った。
調査の結果、夏季の野外環境では、分厚く、水分含有量の少ない葉・長い根茎・横広がりな草姿といった、海浜環境への応答として予測された傾向が海浜型変種アナマスミレとアツバスミレでみられた。一方、温室栽培個体では、同集団で夏季の野外環境でみられた形質の値とは大きく異なる形質値をもつ集団が多数存在した。
以上より、夏季の野外環境でみられた形質は、温室環境では再現されなかったため、野外でみられた表現型形質の種間差は、海浜型変種の夏場の海浜環境への可塑的な形質応答によって引き起こされていることが示唆された。