| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-193  (Poster presentation)

大気湿度環境の変化がイチョウの光合成機能に及ぼす影響【A】
Effects of changes in atomospheric humidity environment on photosynthetic function of Ginkgo biloba【A】

*松浦拓海, 半場祐子(京都工芸繊維大学)
*Takumi MATSUURA, Yuko T HANBA(Kyoto Institute of Technology)

街路樹は都市環境の改善に重要な役割を果たしているが、外部環境から受ける様々なストレスにより、街路樹の機能は低下してしまう恐れがある。近年の気候変動の影響の1つとして降水量の増加が予想されており、街路樹はこれまでよりも高湿度環境下で生育しなければならなくなる可能性が高い。

高湿度はモデル植物や作物において、気孔の感受性低下や葉の形態に影響を与えることが報告されているが、街路樹への影響を調査した研究はほとんどない。そこで本研究では、日本で最も植栽されている高木街路樹のイチョウを用いて大気湿度の変化が与える影響を調査した。コントロール(湿度60 %)、高湿度条件(湿度85 %)、回復条件(湿度60 %)の湿度変化を経験させ、光合成、気孔の応答速度、葉の形態、遺伝子発現の変化を調査した。

気孔の応答速度測定の結果、高湿度で栽培した植物では、VPDを0.72 kPa(高湿度)から2.98 kPa(低湿度)に増加させた時に気孔を95 %閉じるまでにかかる時間(tgs95)は、コントロ-ルと差がみられなかった。高湿度状態では、気孔コンダクタンスは増加していた一方、細胞間隙に面した細胞表面積当たりの葉緑体表面積(Sc)が減少したことから、葉肉コンダクタンスによる光合成制限が起きている可能性が示された。光合成速度はコントロールとほとんど同じ値を示した。

湿度を高湿度から中程度の湿度に戻した回復条件ではtgs95が有意に増加しており、気孔の応答速度が減少していることが分かった。また、光合成速度や気孔コンダクタンスがコントロールに比べて減少した。空隙率はコントロールと比較して減少し、葉肉細胞がより密に詰まっていることが示された。さらに、RNAseq解析を行ったところ、多くのストレス関連の遺伝子に発現変動がみられた。このことから、高湿度そのものはストレスにならないが、その後の湿度低下がストレスとなる可能性が示された。


日本生態学会