| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-194  (Poster presentation)

北アルプスにおける標高傾度にそったユモトマムシグサ近縁群の生態特性の変化【A】
Elevational changes in ecological characteristics of the Arisaema nikoense group (Araceae) in the Northern Alps【A】

*前田夏樹(信州大学)
*Natsuki MAETA(Shinshu University)

 複数の近縁種の生態的な特性を明らかにすることは,種多様性の維持機構の理解にとって重要である。そこで、本研究では、上高地の標高1,400~2,300mの登山道ぞいに自生するテンナンショウ属マムシグサ節3亜種カミコウチテンナンショウ、ハリノキテンナンショウ、ユモトマムシグサの標高分布を明らかにし、形態・成長・繁殖の標高傾度にそった変化について調べた。
 ユモトは岳沢のみに分布していたのに対し、カミコウチとハリノキは他の沢にも分布していた。岳沢ではユモトは高標高に局所的に分布しており、他の2亜種とは空間的に分布が分かれていた。涸沢、槍沢ではカミコウチとハリノキは岳沢よりも高標高まで進出していたが、個体数は少なくなった。
 3亜種の開花は5月中旬~8月上旬であり、高標高ほど遅くに開花した。高標高での開花の始まりはユモトがもっとも早かったため、高標高ではユモトが最も長かった。訪花昆虫は標高による顕著な違いは認められなかった。結実は8月下旬~10月下旬であり、高標高ほど早くに結実した。また、3亜種間で結実時期に顕著な違いはなかった。果実は低標高でルリビタキ、高標高でノゴマが採食していたため、標高によって種子散布者が異なっていた。
 カミコウチとハリノキは高標高ほど葉の傾きが大きく、カミコウチは高標高ほど葉を2枚に増やす傾向が認められた。それに対し、ユモトは標高に関わらず葉は傾かず、葉の枚数も2枚であった。そのため、ユモトの葉の形態は他の2亜種よりも標高の影響を受けないと考えられる。
 発芽実験から、春化処理を施した場合、施さなかった場合よりも発芽数が増加した。また、ユモトはカミコウチよりも低い温度で発芽した。
 以上の結果から、種子散布者をとおして、種子が散布される標高がカミコウチとユモト間で異なり、ユモトは低温条件でも発芽可能であった。したがって、種子散布から発芽にかけての過程が3亜種の分布に影響していることが示唆された。


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