| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-197  (Poster presentation)

山岳域における細根の水獲得・保持機能の環境応答性:針葉樹と広葉樹の樹種間比較【A】
Response of fine root water uptake and retention to environmental change in alpine forests: comparison between coniferous and broad-leaved trees【A】

*増本泰河, 橋本裕生, 伊藤拓生, 牧田直樹(信州大学)
*Taiga MASUMOTO, Yuki HASHIMOTO, Takumi ITO, Naoki MAKITA(Shinshu Univ.)

森林生態系において、生育環境が変化した際に、樹木は成長を維持するために細根(直径2 mm以下の根)の水獲得・保持機能を調節する可能性がある。しかしながら、植物内の水の流れに直接影響する水分生理特性の評価が行われておらず、細根の水獲得・保持機能の環境応答性は未解明である。本研究では、山岳標高差を利用し、樹木細根の水獲得・保持機能の環境応答性を検証した。調査は2021、2022年の8月~9月に、乗鞍岳の標高2000 m、2500 mの2地点で行った。標高2500 m地点は、標高2000 m地点よりも、調査期間中の平均気温・地温が低く、樹木の成長期間も短い。対象樹種としてダケカンバ(落葉広葉樹)とオオシラビソ(常緑針葉樹)を選んだ。成木から細根を採取し、プレッシャーチャンバーを用いて、一定の圧力を加え、圧力当たりの出液速度を測定し、水獲得機能に関係する根水透過性を求めた。細根の脱水と加圧を繰り返し、水ポテンシャルと相対含水率の関係を評価し、水保持機能に関係するPressure-Volume(P-V)曲線特性として、原形質分離時の水ポテンシャル、キャパシタンスを求めた。結果、根水透過性は、ダケカンバでは標高2500 m地点において有意に高くなったが、オオシラビソでは有意な変化がみられなかった。根水透過性が高いほど効率的に地上部に水を運べることから、ダケカンバは標高の増加に対して細根の水獲得機能を高めることが示唆された。一方、P-V曲線特性はダケカンバでは有意な変化がみられなかったが、オオシラビソでは標高2500 m地点において原形質分離時の水ポテンシャルとキャパシタンスが有意に低くなった。原形質分離時の水ポテンシャルが低いほど水ストレスに強くなる、キャパシタンスが低いほど水を失いにくくなることから、オオシラビソは標高の増加に対して細根の水保持機能を高める事が示唆された。本発表では、細根特性の結果を合わせ、ダケカンバとオオシラビソが異なる細根の水獲得・保持機能の環境応答性を示した理由を考察する。


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