| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-199 (Poster presentation)
ハナハタザオ(Dontostemon dentatus)は,環境省絶滅危惧種IA類に分類されるアブラナ科の越年草であり,日本では茨城県の海岸部と山梨県および熊本県の内陸部の3ヶ所にのみ生育が確認されている。生育地間の距離が離れた絶滅危惧植物は遺伝的な交流が少なく,さらに異なる環境で生育している場合は環境適応的な性質を示す可能性が高い。特に海岸部と内陸部に生育する場合,耐塩性に関わる生理生態特性に差が生じることが予想される。そこで本研究では,ハナハタザオの海岸個体と内陸個体で耐塩性を比較し,環境適応を示す生理生態特性の違いを明らかにすることを目的とする。まず,塩水処理を行うにあたり塩分濃度による生育状態を示す健全度への影響を明らかにするため,0 mM,50 mM,100 mM,150 mMで耐塩性比較試験を行った。次に,耐塩性比較試験をもとに設定した塩分濃度で塩水処理を行い,SPAD値・葉の厚さ・健全度への影響を比較した。耐塩性比較試験の結果,塩水灌漑のみを処理したときに,両個体において100 mM以上の濃度で健全度に差が現れた。一方,塩水灌漑と塩水灌漑と同濃度の塩水スプレーの両方を処理したときは,海岸個体は100 mM以上の濃度で,内陸個体は50 mM以上の濃度で健全度に差が現れた。耐塩性比較試験より,塩水処理試験では塩水灌漑を100 mM,塩水スプレーを50 mMに設定した。塩水処理試験の結果,塩水灌漑のみを処理した区は,内陸個体でのみSPAD値・葉の厚さ・健全度が低下した。一方,塩水灌漑と塩水スプレーの両方を処理した区では,海岸個体と内陸個体の両方でSPAD値・葉の厚さ・健全度が低下した。これらの結果より,海岸個体は内陸個体に比べて耐塩性の特性を示し,耐塩性に関する生理生態的な環境適応を獲得している可能性があると考えられた。