| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-203 (Poster presentation)
自然環境下では、ウイルス・植物・食害昆虫のような敵対関係を含む系が、崩壊せずに持続している場合があり、どのような相互作用がそのバランスを保っているのかを明らかにすることは重要である。近年RNA-seq技術の発達により自然環境下において、顕著な病徴を示さない野生植物へのウイルス感染例が報告されてきている。兵庫県多可郡多可町のハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)の野生集団における、カブモザイクウイルス(TuMV)感染もその1つである。先行研究において、TuMVに感染したシロイヌナズナ(A.thaliana)では、ウイルス感染がアブラムシの繁殖力を高めるとの報告があるが、三者の共存が見られる自然環境下では、異なる相互作用が起きているのではないかと考えた。そこで、本研究では、TuMV-ハクサンハタザオ-アブラムシの系を用いて、ウイルス感染がハクサンハタザオとアブラムシに与える影響の評価とその過程に介在する遺伝子の探索を行った。
2022年春に週1回、合計8回の野外調査を行った結果、TuMV非感染個体に比べ感染個体上でアブラムシがいる確率が低い日、アブラムシ数が少ない日が、それぞれ1回と2回あった。続いて、野外調査地で多く観察されたモモアカアブラムシ(Myzus persicae)を用いた室内実験では、感染葉と非感染葉の間のアブラムシの移動は少ないこと、TuMV感染葉上でアブラムシの繁殖力が低下することが示された。さらに、TuMVの存在により植物ーアブラムシ相互作用の変化に影響する介在遺伝子を探索するため、アブラムシの吸汁阻害が報告されているphloem protein等について、TuMV感染およびアブラムシの存在下で発現誘導される遺伝子の解析を行った結果を報告する。