| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-204 (Poster presentation)
スギは成長が速く通直性が高いため木材として古くから利用されており、また日本各地に分布して高い遺伝的多様性をもつ樹種である。またスギの成長においては、若齢木の段階で成長が良い遺伝型(系統)が、成木段階でも成長が良いとは限らない場合があることが分かっている。若齢時は枝を広げ、より多くの光を獲得することが成長にとって重要であるが、成木では林冠の閉鎖により樹冠を広げることは難しい。よって集団内で樹木の生産性を高めるには、樹冠面積あたりの成長速度(空間利用効率)を高めることが重要であると考えられる。しかし空間利用効率にどのような特性が関わっているかについては、未だ十分に調べられていない。
本研究では多系統のスギ精英樹の空間利用効率や光獲得様式の系統間差を評価した上で、特に成木の樹冠構造を中心に空間利用効率に影響すると思われる形質を定量し、空間利用効率の決定要因を探った。
茨城県の林木育種センター・大久保育種素材保存園に生育するスギ第一世代精英樹(若齢木63系統・成木786系統)を対象に、樹冠での光吸収率や光減衰率など光獲得様式を計測し系統間差を調べた。また成木についてはLiDARドローンで取得した点群情報を高さごとに解析することにより、各系統の樹冠形状や葉群密度など樹冠特性を調べ、これらと空間利用効率との関係を調べた。
若齢木、成木ともに、成長速度や光獲得様式、樹冠特性において、系統による大きな違いがあった。成木においては、空間利用効率と光減衰率との間に負の相関が見られ、また光減衰率は樹冠表面の葉群密度や樹冠扁平性の指標と正の相関がみられた。このことから、樹冠表面の葉群密度が小さくなる、または樹冠の尖度が大きくなることにより樹冠内で光が緩やかに減衰し、個葉の光合成が光飽和せずに、個体の空間利用効率が高まると考えられる。