| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-207 (Poster presentation)
地球上の生物は様々な環境変動を経験し、その中で環境に適した個体が子孫を残すことで存続してきた。そのような環境変動に対し、種間交雑と戻し交雑を繰り返しながら他種の遺伝子を獲得(浸透交雑) することにより環境適応してきたと考えられている。本研究では、標高に応じて分布が連続的に移行し、交雑をするコナラQuercus serrataとミズナラQuercus crispulaを対象に、浸透交雑による環境適応があると考え、両種の形質の変化を検証した。両種の分類に重要な葉形状(分類形質)を、直接測定解析、ランドマーク解析、楕円フーリエ解析により定量化し、複数人での葉のスキャン画像に基づいた種判別との対応をとった。標高に対する適応形質として、葉面積あたりの葉重(LMA)、引張弾性率、氷核形成温度、炭素同位体比を定量した。分類形質の解析ではいずれの方法でも形質値が両種で重複しつつ2群に分かれ、境界付近には人間の判断が分かれた中間型が分布した。各種を特徴づける形質は、葉柄の長さや鋸歯の粗さなどの一般的なコナラとミズナラの判別基準と対応しており、人間の種判別と定量評価が概ね一致した。適応形質は両種間で標高勾配に沿って連続的に変化しており、低標高での乾燥への適応や、高標高での低温や貧栄養への適応が示唆された。冗長性分析では、適応形質の48.6%が分類形質と標高によって説明された。このうち27.3%が標高に伴う分類形質の変化により説明され、13.3%が分類形質のみ、8.0%が標高の違いのみによって説明された。以上の結果から、種による機能形質の違いもありつつ、浸透交雑による環境適応が生じていると仮定した場合と矛盾することはなく、浸透交雑による環境適応の存在が示唆される。