| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-218 (Poster presentation)
光合成系の光化学系II(PSII)は反応中心にあるD1タンパク質が強光によって損傷し,失活する.PSIIの失活は光阻害の原因の1つであるが,葉緑体リボソームで大量に合成されるD1タンパク質によりPSIIは修復されている.ポリアミン(PAs)は全生物の細胞に含まれており,葉緑体にも高濃度で存在している(Slocum et al., 1991).PAsはtRNAの立体構造を安定化させ,リボソームでのタンパク質合成を促進することが知られており,PAsがD1タンパク質合成を促進し,PSII修復と光阻害の緩和に関与している可能性は高い.また,降雨による葉面の水滴は気孔を閉塞し,光合成に慢性の損傷を生じることが示されている(Ishibashi & Terashima, 1995).小笠原諸島の乾性低木林では,スコールによる気孔閉塞下での強光条件が多発するが,気孔閉塞や低い気孔コンダクタンスがPSIIの強光耐性に与える影響について,十分な検討は行われていない.そこで,ホウレンソウおよび小笠原諸島の木本種を対象に降雨を模したスプレー付与と強光照射を行い,PSIIの強光耐性にPAsが関わるのか検討を行った.
ポット栽培したホウレンソウは強光照射に降雨処理が加わるとPSIIの光阻害の進行速度が1.24倍に増加した(p < 0.05).一方,小笠原諸島の木本植物4種のうちハウチワノキを除く3種では降雨処理により光阻害の進行は影響を受けず,ホウレンソウおよびハウチワノキの光阻害の進行はPAsの1種であるスペルミジン(Spd)の付与により緩和される傾向がみられた.また,ハウチワノキはPSII損傷速度Kpiが対象樹種中で最も低く,Kpiと気孔コンダクタンスには負の相関(p < 0.01)がみられること,PSII修復速度KrecはPAs生合成阻害剤により低下することが示された(p < 0.05).