| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-221 (Poster presentation)
霜害は展葉後の低温によって起こる現象であり、森林の生態系に被害をもたらすが、温暖化および緯度、標高に伴う気温の勾配によって増加するか減少するかは明らかになっていない。また、従来の研究は凍結を伴い葉量が減少するような強い霜害を対象に行われることが多く、植物が低温とともに光にさらされて光化学系がストレスを受けるようなマイルドな霜害についての知見は不足している。本研究では日本のブナ林の過去21年間の衛星観測データから光化学反射指数 (PRI) を用いて春季の光化学系のストレスの年、緯度、標高、温度との関係を解析した。
PRIは植物の色素量の変動に伴って値が変動するため、春季の観測を行うためには色素量補正を行う必要がある。一般的には暗条件で計測したPRIであるPRI0を用いて色素量変動を補正し、ΔPRI=PRI-PRI0を計算する。しかし、衛星観測では暗条件の計測ができないため、PRI0による補正を行うことができないという問題点がある。そこで本研究では、個葉実験でPRI0と相関がある反射分光指標を探索した。その結果、Green Red Vegetation Index (GRVI) がPRI0と強く相関し、PRIの色素量変動を補正できることが明らかになった。
GRVIによる補正法を衛星観測にあてはめた結果、衛星観測ΔPRIは年経過によって低下し、高緯度、高標高ほど低くなっていたことから、植物のマイルドなストレスは、年経過に伴って増加し、高緯度、高標高ほど多いことが示唆された。また、夜間地表面温度が低いほど、ΔPRIが低くなっていたことからΔPRIが低温の影響をとらえていることが示唆されたが、夜間地表面温度を重回帰分析の説明変数に加えても年、緯度、標高の効果がみられたことから、これらの効果は低温以外の影響も含むことが示唆された。